第15章 死穢八齋會
「私は、あなたたちと過ごす時間が好きだったの。教室でくだらない話をしたり、訓練で競い合ったり、寮で一緒に食事をしたり……そういう、何でもない時間が」
そこで、彼女は小さく笑った。
「だから、知られたくなかったのよ」
その言葉は、爆豪と緑谷の胸に、思いのほか深く刺さった。
彼女は、隠していた。
任務のためだけではなかった。
自分たちと過ごした時間を守るためでもあったのだ。
けれど、それは同時に、彼女が自分たちを信頼していなかったということでもある。
少なくとも、彼女はそう考えていたのだろう。
「……っ」
緑谷は唇を噛んだ。
彼女が何を考え、どんな思いで自分たちと過ごしていたのか。
想像することしかできない。
けれど、ひとつだけ分かったことがあった。
彼女は、クラスメイトたちとの日々を偽物だと思っていたわけではない。
むしろ、大切にしていた。
だからこそ、秘密を明かせなかったのだ。
「……そう」
彼女は、ふっと息を吐いた。
「知られてしまった以上、私はこの任務を降りなければいけないわね」
その言葉に、空気が凍りついた。
「……は?」
爆豪が目を見開く。
「正体が知られた以上、雄英に潜入している意味がなくなるもの。公安には、任務の変更を申し出るわ。あなたたちに知られてしまったことも、報告しなければならないし……」
淡々とした口調だった。
あまりにも、淡々としていた。
まるで、それが当然の結論であるかのように。
だが、爆豪は、その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が冷たくなるのを感じた。
任務を降りる。
つまり、ここからいなくなるということか。
教室から。
訓練から。
寮での生活から。
何気ない会話も、くだらない言い合いも、もうなくなるかもしれない。
彼女が隣にいることが、当たり前ではなくなる。
「……ふざけんな」
低い声が漏れた。
彼女が目を上げる。
「爆豪くん?」
「誰がそんなことしろっつった」
「でも……」
「俺らが黙ってりゃいい話だろ」
あまりにも、あっさりとした言葉だった。
彼女は目を見開いた。