第15章 死穢八齋會
「……初めから、です」
緑谷は気まずそうに視線を落とした。
「オールマイトが屋上に向かう様子が、いつもと違っていて……それで、かっちゃんと一緒に後を追いかけてきました。まさか、こんな話をしているなんて思わなくて……」
「……チッ」
爆豪が舌打ちする。
いつもの癖だった。頭の中が整理できない時、苛立ちを誤魔化すように舌打ちが出る。
今が、まさにそれだった。
何から考えればいい。
何から聞けばいい。
目の前にいる女は、間違いなく、いつものおもちだった。
雄英高校一年A組のクラスメイト。
戦闘になれば誰よりも冷静で、時折、こちらの予想を超える判断をする女。普段はどこか抜けていて、生活面では呆れるほど隙があるくせに、妙なところで大人びている。
教室で笑っていた。
授業を受けていた。
訓練では、自分たちと同じように汗を流していた。
寮では、何食わぬ顔でチャイを淹れ、くだらない話に笑っていた。
それが。
実は身分を隠した公安の捜査員で。
二十一歳の成人女性で。
五年以上の実務経験を持ち。
すでにヒーローの本免許まで取得していて。
あの死穢八齋會に潜入し、ステラという名前で用心棒をしていた。
――冗談じゃねぇ。
情報量が多すぎる。
頭が追いつかない。
「待って、ください」
緑谷が、ようやく声を絞り出した。
「本免許って……どういうことですか?仮免許試験を受けたのは知っています。でも、公安の判断で本免許が交付されていたなんて……」
「そのままの意味よ」
彼女は静かに答えた。
「公安での実務経験と、試験で確認された能力を踏まえて、本免許が交付されたの」
「じゃあ、僕たちと同じ試験を受けていたのも……?」
「雄英の生徒として参加する必要があったから。表向きは、あなたたちと同じ立場よ」
「表向き……」
緑谷は、その言葉を繰り返した。
同じ教室にいた。
同じ授業を受けていた。
けれど、彼女が見ていた景色は、自分たちとは違っていたのかもしれない。
そう考えると、今までの出来事が一気に別の意味を帯びてくる。
戦闘中、彼女が時折見せていた異様な判断力。
敵の行動を読む速さ。
危険な状況でも、決して慌てなかった理由。