第15章 死穢八齋會
「私も、あなたに心配をかけたいわけじゃないの」
「なら……」
「でも、心配をかけたくないからといって、任務を放棄するわけにはいかない。私が引き受けた仕事には、責任があるの」
彼女の瞳は、揺らがなかった。
「あなたに話せば、きっと止めようとするでしょう。危険だからやめろと。もっと安全な道を選べと。……でも、それでは駄目なのよ」
「私は、君を止めたいわけでは……」
「分かっているわ」
彼女は、そこで初めて視線を落とした。
「でも、あなたが私を心配するたびに、私は自分の選択が誰かを苦しめていることを思い知らされる。それが、嫌だった」
夕日が、彼女の横顔を赤く染めていた。
「私は、自分で選んだの。公安にいることも、この任務を引き受けたことも。だから、あなたにまで責任を感じてほしくなかった」
「……君は」
オールマイトは、言葉を失った。
彼女は、誰かを頼らないのではない。
頼ることで、その相手まで苦しませることを恐れているのだ。
だから、すべてを自分の中に閉じ込める。
自分が選んだことだから。
自分が責任を負うべきだから。
そうやって、周囲からの心配さえ遠ざけようとしている。
それが、彼女の強さであり、弱さでもあった。
「……君は、まだ私を頼ってくれてもいいんだぞ」
オールマイトの声は、先ほどまでとは違っていた。
「君が成人していることも、公安の人間であることも、分かっている。君の人生は君のものだ。君が何を選ぶのか、私が勝手に決めることはできない」
彼女は黙って聞いていた。
「だが、君がすべてを一人で背負う必要もないんだ。君が苦しい時、誰かに助けを求めることは、君の責任を放棄することではない」
「…………」
「君は、私の姪だ。任務を遂行する公安の人間である前に、私にとっては……」
オールマイトの声が、一瞬だけ震えた。
「大切な家族なんだ」
彼女の指先から、煙草の灰が落ちた。
その言葉は、予想していなかったわけではない。
それでも、真正面から伝えられると、胸の奥がひどく痛んだ。
彼女は、視線を逸らした。
「……ずるいわね」