第15章 死穢八齋會
「どうしたの?」
何も知らないような、柔らかな声。
その笑顔を見た途端、爆豪はまた腹が立った。
違う。
そうじゃねぇ。
俺が見てぇのは、そんな顔じゃねぇ。
いつものように、気の抜けた顔をしろ。
くだらねぇことで笑え。
面倒くせぇと文句を言え。
疲れたなら、疲れたと言え。
何でも一人で片づけようとするな。
……俺にくらい、少しは隙を見せろ。
そんな言葉が喉元まで出かかった。
けれど、口にできたのは、いつもどおりのぶっきらぼうな一言だけだった。
「……別に」
爆豪は視線を逸らす。
「見てただけだ」
「私を?」
「うるせぇ」
「ふふ」
彼女が笑った。
いつもの笑い方。
いつもの声。
それだけで、胸の奥がわずかに緩む。
ああ、やっぱり好きなんだろうな。
そんな考えが、あまりにも自然に浮かんでしまった。
彼女が笑えば、少し安心する。
彼女が楽しそうなら、それでいいと思う。
それなのに、その笑顔が自分の知らない何かを隠すためのものだったら、途端に苦しくなる。
矛盾している。
自分でも、どうしようもなく面倒な感情だと思う。
けれど、もう誤魔化せそうになかった。
ただのクラスメイトなら、ここまで気にしない。
ただの戦友なら、こんなふうに目で追ったりしない。
轟と話しているだけで苛立ったり、何気ない笑顔に救われたりもしない。
気づけば、彼女の些細な変化に一喜一憂している。
彼女が自分の方を見れば、意識する。
名前を呼ばれれば、反射的に顔を上げる。
何かあれば、真っ先に気づきたいと思っている。
そんな自分を、爆豪はもう否定できなかった。
――好きだ。
認めたくなくても、そうとしか言いようがない。
だからこそ、今の彼女が気に食わなかった。
好きな女が、何かを隠している。
そのくせ、何もなかったように笑っている。
自分には何も教えてくれない。
それが、たまらなく悔しかった。
「…………」
爆豪は、もう一度だけ彼女を見た。
彼女はすでに視線を戻し、八百万の話に耳を傾けている。
その横顔は穏やかで、誰が見ても何の問題もないように映るだろう。
だが、爆豪には分かる。
あいつは今、見えない線を引いている。
――ここから先は入ってくるな。
言葉にはしていない。
態度にも、はっきりとは出していない。
それでも、確かに感じる。