第15章 死穢八齋會
爆豪は、そんな彼女の姿を知っている。
誰よりも、とまでは言わない。
だが、少なくとも、クラスメイトの大半が知らないような顔を見てきたつもりだった。
人前では隙のない女が、気を許した場所では驚くほど無防備になる。
眠そうに目をこすったり、クッションを抱えたまま動かなくなったり。
こちらが何か言えば、悪びれもせずに笑って誤魔化す。
そんな時、どうしようもなく思ってしまうのだ。
――こいつ、俺の前ではこんな顔もするんだな、と。
別に、特別な意味があるとは思っていなかった。
いや。
思いたくなかったのかもしれない。
だが、今は違う。
ちゃんとしている。
ちゃんとしすぎている。
誰に対しても、一定の距離を保っているように見える。
笑顔も、言葉も、仕草も、すべてが整いすぎている。
まるで、誰にも余計な心配をさせないように。
誰にも自分の内側を見せないように。
「……なんか隠してるだろ」
小さく呟いた。
もちろん、聞こえるはずもない。
仮に本人に直接問いかけたとしても、きっとあいつは笑うのだろう。
『ふふ。何もないよ』
そう言って、あの青い瞳でこちらを見る。
その瞳には、嘘をついていると分かるような動揺など、きっと浮かばない。
そして、本当に何も感じさせない。
それが腹立たしかった。
いや。
腹が立つだけなら、まだよかった。
本当は、もっと別の感情があった。
心配だった。
その一言に尽きる。
何かあったのなら、話せばいい。
誰かに頼ればいい。
少なくとも、自分にくらい。
そう思ってしまう自分が、ひどく気に食わなかった。
あいつは自分の所有物じゃない。
恋人でもない。
好き勝手に踏み込んでいい理由なんて、どこにもない。
それなのに、あいつが一人で何かを抱えていると思うと、胸の奥がざわつく。
知らないところで傷ついていたら。
誰にも言えないことで苦しんでいたら。
いつもの笑顔の裏で、誰にも助けを求められずにいたら。
そう考えるだけで、苛立ちと焦りが混ざった、どうしようもない感情が込み上げてくる。
「……バカが」
爆豪は小さく吐き捨てた。
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
彼女がこちらを振り向いた。
「……?」
目が合う。
一瞬。
彼女はいつものように笑った。