第15章 死穢八齋會
断片的な情報しか与えられていないにもかかわらず、彼は自分の見たものと聞いた話を結びつけ、真実の輪郭へ近づこうとしている。
公安が隠したこと。
自分が残した痕跡。
そして、壊理との関係。
すべてを知らないはずの彼が、たった一つの違和感から、ここまで推測を進めている。
(……さすがね)
心の中で、彼女は小さく息を吐いた。
けれど、感心している場合ではなかった。
緑谷の推測が正解に近づくほど、自分が積み重ねた嘘は、いつか崩れる可能性を高めていく。
それでも、彼女は表情を変えなかった。
緑谷はおもちを見つめ、少しだけ考えるような間を置いた。
「……おもちさんは、どう思う?」
不意に投げかけられた問い。
彼女は一瞬だけ、緑谷の瞳を見返した。
その目には疑いよりも、真実を知りたいという純粋な探究心が宿っている。
「そうね……」
彼女は口元に微笑みを浮かべた。
「表に出ないからこそ、守れるものもあるのかもしれないわ」
それは、嘘ではなかった。
けれど、真実のすべてでもなかった。
「……そっか」
緑谷は納得したように頷いた。
彼女はその反応を確かめてから、何気ない仕草で視線を逸らす。
胸の奥では、まだ今日の出来事が渦巻いていた。
壊理の小さな手。
緑谷の蹴りが叩き込まれた右腕の痛み。
血に染まった地下施設。
そして、公安に提出しなかった、あのデータ。
何もかもを胸の内に押し込めたまま、彼女は再びクラスメイトたちの輪に溶け込んでいく。
いつか、この嘘のすべてが明らかになる日が来るのだろうか。
その時、自分は何を失うのだろう。
答えは、まだ出なかった。