第15章 死穢八齋會
一瞬、心臓が跳ねた。
彼女は何でもないように腕を引き、微笑んだ。
「ちょっと疲れているだけよ。大丈夫」
「……チッ」
爆豪は不機嫌そうに舌打ちした。
それ以上、追及することはなかった。
代わりに、火加減を確認しながら低い声で言う。
「さっさと終わらせて、てめぇはソファで休んでろ」
口調は乱暴だった。
命令するような言い方で、優しい言葉を選ぶつもりなど微塵もないらしい。
それなのに。
その声音には、彼女の疲労を気遣う気持ちが、隠しきれずに滲んでいた。
「……ふふっ」
思わず笑いがこぼれた。
「何笑ってんだ!」
「ううん。爆豪君って、優しいのね」
「はぁ!? どこがだ、クソが!」
「そういうところよ」
彼女はくすくすと笑いながら、鍋の中を覗き込んだ。
その横顔を、轟は何気なく見つめていた。
柔らかく細められた目。
ふっとほどけた唇。
普段の落ち着いた微笑みとは違う、気の抜けたような、可愛らしい笑顔。
一瞬、言葉を忘れた。
――……笑うと、こんな顔するんだな。
ほんのわずかに見入ってしまったことに、轟自身は気づいていなかった。
けれど、キッチンの入り口からその様子を見ていた女子たちは、しっかりと気づいていた。
「……うわぁ」
芦戸が両手で口元を押さえる。
「今の見た!?」
耳郎が小声で囁いた。
「ええ……! 轟さん、完全に見とれていましたわ……!」
八百万まで頬を赤らめ、声を潜めている。
三人は顔を見合わせた。
爆豪と轟。
クラスでも目立つ二人が、そろっておもちのそばにいる。しかも、片方は彼女のためにミルクを温め、もう片方は彼女の頼みを受けて真剣にスパイスを計っている。
「なんか、すごくない?」
「すごいですわ……。お二人とも、普段はあんなに他人に構わないのに……」
「いや、爆豪は相変わらず口悪いけどさ。あれ、絶対心配してるじゃん」
「轟君も、あんな顔するんだねぇ……」
三人の想像は、どんどん膨らんでいく。
どうやら、クラスのツートップに懐かれるおもちの姿を眺めることが、彼女たちの密かな楽しみになっているらしい。
「……何コソコソしてんだ、お前ら!」
爆豪が鋭い視線を向ける。
「な、なんでもないよー!」
芦戸が慌てて顔を背けた。