第15章 死穢八齋會
「……そっか。じゃあ、無理はしないでね」
「ええ」
何かをしている方が、気がまぎれる。
それは、彼女自身にも言い聞かせている言葉だった。
立ち止まれば、考えてしまう。
壊理のこと。緑谷たちのこと。青山のこと。そして、公安を欺いた自分のこと。
だから、今は手を動かしていたかった。
そのとき、キッチンの方から勢いのいい声が上がった。
「よーし! じゃあ俺、ガトーショコラ作るわ!」
佐藤力動だった。
「えっ、今から!?」
「こういうときこそ甘いもんだろ! チョコレートはあるし、材料も揃ってる。みんなで食べれば少しは気がまぎれるって!」
「いいじゃん、佐藤! 私も食べたーい!」
芦戸がぱっと顔を輝かせる。
「じゃあ、私はお茶を用意するわね」
おもちがそう言って棚から茶葉やスパイスの瓶を取り出すと、佐藤はさっそく材料を並べ始めた。
ロビーに沈んでいた空気が、ほんの少しだけ和らぐ。
誰かがキッチンへ向かい、誰かがテレビの音量を下げる。まだ不安は消えていない。それでも、ただ画面を見つめているよりは、何かをしている方がよかった。
おもちはミルクパンや計量器具を取り出し、手際よく準備を始めた。
すると、いつの間にか隣に人影が立っていた。
「俺も、何か手伝おうか」
顔を上げると、轟焦凍がこちらを見ていた。
「轟君?」
「みんな、何かしてた方が落ち着くみたいだし。俺にもできることがあれば」
真面目な申し出に、彼女は思わず微笑んだ。
「ありがとう。それじゃあ、シナモンを五グラム計ってくれる?」
「分かった」
轟は頷くと、彼女の指示どおりにシナモンの瓶を手に取った。
計量器の数字を確認しながら、慎重に粉末を小皿へ移していく。
その横顔を見て、彼女は小さく笑った。
「ふふ。そんなに真剣に計らなくても大丈夫よ」
「でも、五グラムなんだろ?」
「ええ。正確なのは助かるわ」
「なら、ちゃんとやる」
あまりにも真っ直ぐな返答に、彼女はまた笑ってしまった。