第15章 死穢八齋會
自室に戻ると、扉を閉め、鍵を掛ける。
ようやく、一人になれた。
「……はぁ」
深く息を吐き、制服の上着を脱ぐ。
スカートのファスナーを下ろし、足元に落ちないよう丁寧に外した。続いてシャツのボタンを外し、袖から腕を抜く。
そのとき、ふと視線が止まった。
姿見に映った自分の右腕。
二の腕から肘にかけて、赤黒い痣が広がっていた。
「……ああ」
彼が放ったワン・フォー・オールのフルカウルによる蹴りを受けたときの痕だ。
あの一撃は、予想以上に重かった。
「さすが、オールマイトの個性ね……」
感心したように呟く。
もちろん、感心している場合ではないのだが。
指先で痣の縁にそっと触れると、鋭い痛みが走った。
「っ……」
眉が寄る。
表面だけの打撲ではないらしい。腕を動かすたびに、奥の方までズキズキと響く。任務中は気を張っていたせいか、そこまで気にならなかった。
それなのに、今になって痛みが存在を主張し始めている。
彼女は腕をかばうようにしながら、下着姿のままベッドへ向かった。
黒い下着だけを身につけた身体を、柔らかなマットレスに沈める。
「……疲れた」
ぽつりとこぼした言葉は、誰にも聞かれることのない本音だった。
死穢八齋會への潜入。
壊理の救出。
知崎の敗北。
ファットガムとの遭遇。
公安への報告。
そして、青山優雅の名前。
今日一日で、どれほどのことが起きたのだろう。
目を閉じれば、鮮明な光景が次々とよみがえる。
壊理の怯えた瞳。
緑谷が自分を信じ、迷わず前へ進んでいく姿。
銃声とともに倒れた残党たち。
上司の前で、何事もなかったように嘘をついた自分。
どれも、簡単には忘れられそうになかった。
けれど今は、考える気力すら残っていない。
腕の痛みを堪えながら、彼女は枕に頬を寄せた。
いつの間にか、呼吸がゆっくりと深くなっていく。
張り詰めていた身体から、少しずつ力が抜けていった。
彼女の意識は、静かに眠りへと沈んでいく。
そして、ようやく訪れた静寂の中で、眠りに落ちた。
その夜だけは、公安の人間でも、潜入捜査官でもなく。
ただ、疲れ果てた一人の少女として。