第15章 死穢八齋會
「テレビで見たわ。緑谷君たち、また事件の渦中にいるなんて……」
心配そうに眉を下げ、息をのむ。
驚きも、戸惑いも、心配も。
その表情には、クラスメイトたちが求める反応が過不足なくそろっていた。
完璧な演技だった。
「ほんとだよなぁ。あいつら、いつも事件に巻き込まれてない?」
上鳴が苦笑する。
「巻き込まれてるというより、助けに行っちゃうんじゃない?」
耳郎が呆れたように返した。
「でも、緑谷さんならきっと大丈夫ですわ。切島さんも、簡単にはくじけない方ですもの」
八百万が不安を振り払うように言う。
彼女は、そんなクラスメイトたちの会話に穏やかな笑みを浮かべた。
「ええ。二人とも、無事に帰ってきてくれるといいわね」
その言葉を口にした瞬間、胸の奥が鈍く痛んだ。
緑谷は、壊理を救うために戦った。
切島は、仲間を守るために傷ついた。
そして自分は、その二人のそばにいながら、正体を明かさなかった。
緑谷は知らない。
壊理を自分のもとへ向かわせたのが、彼女だったことを。
切島も知らない。
あの地下研究所で、ファットガムと対峙していた女が、同じ寮で暮らす自分のクラスメイトだということを。
彼らが帰ってきたら、きっといつものように話をするのだろう。
何があったのか。どれほど危険だったのか。
彼らが話す事件の裏側を、彼女はすでに知っている。
それでも、初めて聞くような顔をして、驚き、心配し、安堵するのだ。
「ごめんなさい。私、先に着替えてくるわね。すぐに降りてくるから」
「うん、お疲れ! あとでインターンの話も聞かせてね!」
「ええ、もちろん」
軽く手を振り、彼女はロビーを後にした。
背中に、クラスメイトたちの何気ない会話が遠ざかっていく。
扉を閉める直前、もう一度だけテレビの音が耳に届いた。
『緑谷出久氏が、重傷を負いながらも敵の首魁を制圧したとみられ――』
彼女は、そっと目を伏せた。
緑谷君。
心の中で名前を呼ぶ。
よかった。
本当に、よかった。
それだけは、嘘ではなかった。