第15章 死穢八齋會
公安本部の一室。
無機質な照明の下、おもちは上司の向かいに座っていた。
机の上には、事件の経過をまとめた報告書と、回収したデータが保存された記録媒体が置かれている。
「ご苦労だった。死穢八齋會の内部情報に加え、ヴィラン連合との接点まで押さえたのは大きい。これで、今後の捜査も進めやすくなる」
上司は報告書に目を通しながら、満足げに頷いた。
「現場での動きについても、こちらで把握している。よくやってくれた」
「ありがとうございます」
彼女は微笑んだ。
いつもどおりの、落ち着いた表情。
声にも、視線にも、不自然なところはない。
「回収したデータは、すべてこちらに?」
「はい。確認できた情報は、こちらにまとめてあります」
彼女は記録媒体を差し出した。
上司はそれを受け取り、端末に接続する。画面には、死穢八齋會の構成員、薬物の取引先、隠れ家の所在地、資金の流れなど、膨大な情報が次々と表示されていった。
彼女は、その様子を静かに見つめていた。
ただし。
そのデータの中に、一つだけ存在しないものがあった。
ヴィランに関する名簿。
青山優雅の名前が記載された、あのファイル。
彼女は報告に先立ち、あらかじめそのファイルだけを抜き取っていた。
ほかのデータと矛盾が生じないよう、関連する記録を確認し、欠落が不自然に目立たないよう整理した。渡した情報に
嘘はない。
ただ、すべてを渡したわけではなかった。
「何か気になることでもあったか?」
上司の声に、彼女は顔を上げた。
「いいえ。特にありません」
「そうか。しばらくは報告書の整理を進めてもらうことになるが、潜入任務の疲れもあるだろう。必要なら休暇を取ってもいい」
「ありがとうございます。ですが、問題ありません」
彼女は淀みなく答えた。