第15章 死穢八齋會
雄英の情報が外部へ流れていたこと。
ヴィランたちが、知り得ないはずの情報を把握していたこと。
そして、今、目の前に突きつけられた名簿。
彼女の中で、疑念が形を変えていく。
憶測が、確信へと近づいていく。
「……嘘、でしょう」
唇を噛んだ。
強く噛み締めすぎて、口の中に鉄の味がにじむ。
それでも、痛みを感じている余裕はなかった。
青山優雅。
彼が、本当に内通者なのだとしたら。
雄英で過ごしてきた日々は何だったのだろう。
同じ教室で笑い合った時間も、クラスメイトとして交わした言葉も、すべてが疑わしく思えてしまう。
そして、何より。
自分が守ろうとしてきたものは、いったい何だったのか。
公安として、彼女は数え切れないほどの嘘をついてきた。正体を隠し、相手を欺き、必要とあらば冷酷な判断も下した。
そのすべては、守るべきものを守るためだった。
そう信じてきた。
しかし今、真実に近づくほど、自分が信じてきた世界そのものが崩れていく。
壊理を守るために、緑谷たちを欺いた。
仲間を守るために、仲間の中に潜む裏切り者を探さなければならない。
誰かを救うために、誰かを疑う。
誰かを守るために、誰かを切り捨てる。
正義を貫くために、正義とは思えない行為を重ねる。
その矛盾を引き受けることこそが、自分の役目だと思っていた。
けれど。
もし、信じていた仲間が敵だったら。
もし、自分が守ろうとしてきたものの中に、最初から裏切りが潜んでいたのだとしたら。
自分の信念は、いったい何を支えにしていたのだろう。
彼女の指から、端末が滑り落ちそうになった。
慌てて握り直す。
血の気が引いていく。
寒さとは違う震えが、背筋を伝った。
「……私は、いったい何を信じればいいの」
その問いに、答えはなかった。
夜の街は変わらず明るく、人々は何事もなかったかのように行き交っている。
誰も知らない。
死穢八齋會の地下で、彼女が何を見たのか。
壊理のために、どれほどの嘘を重ねたのか。
そして今、どれほど残酷な真実に触れてしまったのか。
彼女は端末を胸元に抱え、目を閉じた。
任務は終わったはずだった。
それなのに、ようやく手に入れた情報は、彼女の心に新たな傷を刻みつけた。