第15章 死穢八齋會
何度も自分に言い聞かせてきた言葉が、今はひどく空虚に聞こえた。
彼女は深く息を吸い、ボストンバッグの中に手を入れた。端末を取り出し、回収したデータを開く。
感情を整理するには、まだ早い。
やるべきことがある。
画面には、死穢八齋會とヴィラン連合に関係する人物の名簿が表示されていた。彼女は一つひとつの名前に目を走らせ、情報の照合を始める。
取引記録。接触履歴。資金の流れ。
その中に、見慣れた名前があった。
「……え?」
指が止まる。
何度見ても、そこに記載された名前は変わらない。
青山優雅。
雄英高校のクラスメイト。
同じ教室で授業を受け、同じ寮で生活し、同じ仲間たちと笑っていた少年。
どうして、彼の名前がここにある?
彼女はすぐに関連記録を開いた。だが、名簿に名前があるというだけでは、彼が内通者だと断定するには足りない。情報の提供者なのか、取引に巻き込まれた人物なのか、あるいは単に名前を利用されただけなのか。
可能性はいくつもある。
証拠が必要だった。
それでも、頭の中では、これまでの出来事が次々とつながっていく。
雄英高校での、異常なまでのヴィランとの遭遇率。
USJ襲撃事件。
林間合宿での襲撃。
そして、あのときのこと。
ヴィランたちが、自分の個性が使えない状態を知っていた。
あの情報は、外部から簡単に得られるものではなかったはずだ。
個性が使えないことを知る者は限られていた。ましてや、それが林間合宿の襲撃に利用されたのだとすれば。
雄英の内部に、情報を流している人間がいる。
その可能性は、以前から考えていた。
けれど、考えたくなかった。
自分が身を置く場所。仲間と呼ぶ人たちがいる場所。信頼を築いてきたはずの場所。
そこに、裏切り者がいる。
そして、その候補として浮かび上がった名前が。
「……青山くん」
声に出した途端、喉がひどく乾いた。
まだ確証はない。
決めつけてはいけない。公安の人間として、証拠が揃うまでは可能性の一つとして扱うべきだ。憶測だけで誰かを断罪することは許されない。
それは分かっている。
分かっているのに。
点と点が、あまりにも不自然なほどに重なっていく。