第15章 死穢八齋會
血に濡れた衣服を脱ぎ捨て、おもちはロッカーに押し込んであったボストンバッグを開いた。
取り出したのは、黒ずくめの衣服だった。
血の付着したシャツを脱ぎ、袖を通す。乱れた髪を整え、顔についた汚れを拭い取る。先ほどまで銃を握っていた手は、もう
いつもの彼女の手に戻っていた。
身なりを整え終えると、バッグを肩に掛ける。周囲に人の気配がないことを確認し、彼女は地下研究所を後にした。
任務は遂行された。
死穢八齋會の密売に関わる人物、取引先、隠れ家の情報。さらに、ヴィラン連合とのつながりを示す記録も手に入れた。これだけの情報があれば、組織の解体に大きく貢献できるはずだった。
ただ一つ、想定外だったのは、ファットガムとの遭遇だ。
公安の人間だと確信された可能性は高い。あの男がどこまで察したのかは分からないが、少なくとも、自分がただの構成員ではないことには気づいているだろう。
それでも。
切島が意識を失っていたことだけは、救いだった。
あの場で彼に、自分の顔も、銃を撃つ姿も、はっきりと記憶されずに済んだのなら。今はそれだけでよかった。
彼女は夜の街へと紛れ込み、人目を避けながら歩き続けた。
ふと、脳裏に幼い少女の顔が浮かぶ。
壊理ちゃん。
小さな身体。怯えた瞳。誰かに許しを請うように縮こまる姿。
初めて彼女を腕に抱いたとき、その身体がどれほど軽かったか。どれほど長い間、あの子は苦しんできたのだろう。
助けたいと思った。
それは任務のためだったはずだ。
壊理を救い出すことが、死穢八齋會への潜入を続ける理由の一つだった。知崎の信用を得るために、彼女を利用するような振る舞いもした。壊理が自分に懐くよう、優しく声を掛け、安心させる言葉を選んだ。
最初は、すべて計算のうちだった。
けれど。
――ステラお姉ちゃん。
壊理が、自分を呼んだ声が耳の奥によみがえる。
彼女の小さな手が、そっと自分の服を握った感触まで、鮮明に思い出せた。
「……っ」
足が止まった。