第15章 死穢八齋會
緑谷の視線が、壊理を抱きしめる金髪の女に向けられた。
少女は泣いていた。女の胸に顔を埋め、必死に縋りついている。
あの路地裏で出会った時と同じだ。壊理は、治崎のそばにいる人間を恐れていた。ならば、あの女も敵に違いない。
たとえ、どれほど優しそうに見えたとしても。
「壊理ちゃんを……返せ!!」
緑谷は地面を蹴った。
負傷したミリオが治崎を食い止めている今、壊理を救い出せるのは自分しかいない。彼女を抱いている女を無力化し、壊理を保護する。それが最善だと判断した。
緑谷の拳が、一直線に迫る。
おもちは、その動きを見つめていた。
避けることはできる。
精神領域で攻撃の軌道を逸らすことも、不可侵領域で身を守ることもできた。緑谷の攻撃を真正面から受けたところで、彼女自身が致命傷を負うことはない。
しかし、ここで避ければ、壊理を守るために積み重ねてきた工作が、すべて台無しになるかもしれない。
それだけは、避けなければならなかった。
彼女は壊理を抱きしめたまま、ほんのわずかに身体の向きを変えた。
そして――。
ドッ!!
鈍い衝撃が、彼女の身体を襲った。
「っ……!」
身体が大きく揺らぎ、足元が崩れる。
緑谷の拳を真正面から受けたおもちは、壊理を庇うように腕を回したまま、床へと倒れ込んだ。
「ステラおねえちゃん!!」
悲痛な叫びが、地下通路に響き渡った。
壊理の声だった。
緑谷は、一瞬、動きを止めた。
――ステラおねえちゃん?
今、この子は確かにそう呼んだ。
目の前の女を、敵の一員として恐れていたのではないのか。なぜ、倒れた彼女に向かって、あんなにも必死に叫ぶのか。
驚いたのは、緑谷だけではなかった。
「……壊理ちゃん?」
相澤もまた、思わず目を見開いていた。
治崎のそばにいた女に向かって、壊理が助けを求めるどころか、泣き叫んでいる。
その姿は、まるで大切な人を失いかけた子どものようだった。
いったい、何が起きている?
壊理は、倒れたおもちに手を伸ばそうとした。
「おねえちゃん、やだ……! ステラおねえちゃん!!」
涙で濡れた頬を歪め、何度も彼女の名前の代わりに、その呼び名を繰り返す。
その時、壊理の脳裏に、ある言葉が蘇った。