第15章 死穢八齋會
「……壊理ちゃん」
呼びかけると、壊理が恐る恐る顔を上げた。
彼女は、いつもの笑顔を浮かべた。
ふわりと頬が緩む、甘く、とろけるような微笑み。
その笑顔には、公安の人間としての計算も、死穢八斎會の構成員としての仮面もなかった。
ただ、目の前の小さな子どもを安心させたいという気持ちだけがあった。
「見て。あの人たち」
彼女は、戦うヒーローたちへそっと視線を向けた。
「私の仲間たちだよ。壊理ちゃん」
「……え?」
壊理の瞳が揺れる。
彼女は、もう一度優しく微笑んだ。
「もう大丈夫だからね」
まるで、母親が怖い夢から目覚めた子どもを抱きしめるように。
おもちは壊理の頭を撫で、乱れた髪をそっと整えた。
「みんな、壊理ちゃんを助けに来てくれたんだよ」
「……ほんとうに?」
「うん。本当だよ」
壊理は、目の前の女性を見つめた。
今まで、大人の言葉を信じることは怖かった。
優しくすると言われても、次の瞬間には痛い思いをさせられる。大丈夫だと言われても、結局は研究室へ連れていかれる。
何度も、何度も、そうだった。
だから、信じたいと思う気持ちと、信じてはいけないという恐怖が、壊理の小さな胸の中でぶつかり合っていた。
けれど。
目の前の女性は、ずっと自分を傷つけなかった。
研究室にも連れていかなかった。
泣いても怒らず、怖い時には抱きしめてくれた。
そして今、彼女は言った。
あのヒーローたちは、自分の仲間なのだと。
おもちの胸が、きゅっと締めつけられた。
この子は、まだ不安なのだ。
どれだけ優しくしてもらっても、どれだけ大丈夫だと言われても、心の底から信じることができない。
それほどの恐怖を、この小さな身体に刻み込まれてしまった。
彼女は壊理の頬に手を添えた。
「助けに来たからね」
迷いのない声だった。