第15章 死穢八齋會
おもちは、内心で小さく息を吐いた。
やはり、気づき始めた人間がいた。
治崎本人よりも、周囲の変化を観察するミミックのほうが厄介かもしれない。彼の個性が精神に干渉する類いである以上、下手に接触を許せば、自分が何を隠しているのか探られる可能性がある。
だが、彼女は慌てなかった。
「私には、何も。若頭のご命令どおり、壊理を見張っているだけです」
「本当か?」
「ええ」
ミミックが一歩、距離を詰めた。
その瞬間。
おもちの足元から、目に見えない領域が静かに広がった。
精神領域。
彼女はミミックの個性が自分へ干渉しようとする気配を捉えると、その作用を領域の内側へ引きずり込む。伸ばされた見えない手が、彼女の精神に触れるよりも早く、力そのものが飲み込まれていった。
まるで、暗闇に差し込んだ光が、何の痕跡も残さず消えてしまったかのように。
ミミックは、わずかに動きを止めた。
「……?」
「どうかした?」
おもちは不思議そうに首を傾げる。
彼女の表情にも、呼吸にも、変化はなかった。
ミミックはしばらく彼女を睨みつけていたが、やがて舌打ちをした。
「……チッ。まあいい。妙な真似をするなよ」
「もちろんです」
彼が立ち去るのを見届けてから、おもちはゆっくりと息を吐いた。
危なかった。
今の干渉を完全に無効化できたかどうか、確かめる術はない。だが、少なくとも彼に自分の秘密を悟らせることはなかった。
これ以上、警戒を強めさせるわけにはいかない。
計画が動き出すまで、あと少し。
彼女は何事もなかったかのように歩き出した。