第15章 死穢八齋會
壊理が研究室に呼ばれなくなったのは、偶然ではなかった。
おもちは、壊理を見張る役目を与えられたその日から、密かに個性を使っていた。
精神領域。
他者の精神に干渉し、その認識や意識に影響を及ぼす力。
彼女は研究者たちに、ごく簡単な精神支配を施していた。壊理を実験に呼び出そうとしても、なぜかその必要性を感じなくなる。治崎もまた、彼女に壊理を任せている間は研究を急ぐ必要がないと、自然に考えるようになっていた。
強引に意識をねじ曲げるようなものではない。ほんの小さな違和感を取り除き、別の選択肢へと意識を誘導するだけ。
それでも、壊理を苦痛から遠ざけるには十分だった。
もちろん、永続的な効果ではない。定期的に状態を確認し、必要に応じて干渉を重ねる必要がある。相手の精神に深く入り込みすぎれば、かえって異変を察知される危険もあった。
だからこそ、彼女は慎重だった。
壊理の前では、ただ優しいお姉さんを演じる。
治崎の前では、命令に忠実な構成員として振る舞う。
そして誰もいない場所で、少しずつ敵の判断を狂わせていく。
誰にも気づかれないまま、彼女は壊理を守り続けていた。
*
「おい、ステラ」
ある日、廊下を歩いていたおもちを呼び止めたのは、ミミックだった。
治崎の側近の一人であり、他人の精神に干渉して秘密を暴く個性を持つ男。
その視線には、明らかな警戒があった。
「オーバーホールがお前を使い始めてから、妙なことが続いている」
「……妙なこと、ですか?」
「研究の進みが悪い。研究者どもは壊理の実験を後回しにするし、オーバーホールまで以前ほど急かさなくなった。お前、何か知っているんじゃないだろうな?」