第15章 死穢八齋會
ヒーロー。
その言葉は、壊理にとって遠い世界のものだった。
自分のような子どもが助けてもらえるなんて、考えたこともなかった。逃げても、捕まってしまう。泣いても、誰も助けてくれない。自分が悪いのだから、仕方がないのだと思っていた。
けれど、この人は。
この綺麗なおねぇちゃんは、自分を助けに来たと言った。
「……ほんとう?」
縋るような声だった。
女性は、迷うことなく頷いた。
「うん。本当だよ」
壊理の瞳に、みるみる光が宿っていく。
信じていいのだろうか。
この人を信じても、また裏切られたりしないだろうか。
そんな不安が、ほんの少しだけ胸を掠める。
すると彼女は、周囲を気にするようにちらりと視線を巡らせた。誰もいないことを確かめると、いたずらっ子のように口元へ人差し指を立てる。
「でもね……これは、内緒だよ?」
しーっ。
そう言って、そっと壊理の唇に指先を当てた。
「誰にも言っちゃだめだからね。約束できる?」
「……!」
壊理は、こくこくと何度も頷いた。
その仕草を見た女性は、またあの優しい笑顔を浮かべる。
壊理の心は、すっかり掴まれてしまっていた。
綺麗で、優しくて、少しだけいたずらっぽい。
怖い大人たちの中に、こんな人がいるなんて思わなかった。
この人は、本当にヒーローなのだ。
そう信じたいと思った。
「……ステラおねぇちゃん」
「なあに?」
「……たすけて、くれるの?」
女性の笑顔が、ほんの一瞬だけ揺らいだ。
その問いかけの重さを、彼女は誰よりも理解していた。
助けると約束するのは簡単だ。けれど、その約束を果たすためには、まだ乗り越えなければならない壁がいくつもある。
治崎の監視。死穢八斎會の構成員たち。そして、公安から与えられた任務。
彼女は今、敵の懐に潜り込んでいる。
正体が露見すれば、自分だけでなく壊理の命も危うくなる。
それでも。
彼女は壊理の頬にそっと手を添えた。
「もちろん」
今度の笑顔には、演技の欠片もなかった。
「おねぇちゃんが、絶対に助けてあげる」
壊理は、彼女の胸に顔を埋めた。