第15章 死穢八齋會
壊理には、不思議で仕方がなかった。
目の前にいる女性は、今まで自分の見張り役を任された大人たちとは、何もかもが違っていた。
死穢八斎會の人間であることに変わりはない。あの恐ろしい治崎の仲間であるはずなのに、この女性からは、自分を傷つけようとする気配がまるで感じられなかった。
それどころか、壊理が怯えていると、目線を合わせて優しく微笑んでくれる。食事を残してしまっても怒らないし、夜中に怖い夢を見て目を覚ました時には、眠るまでそばにいてくれた。
そして、何よりも不思議なことがあった。
この女性が見張り役になってから、一度もあの研究室に呼ばれていないのだ。
あそこは、壊理にとって何よりも恐ろしい場所だった。
思い出すだけで身体が震え、息が苦しくなる。何度も、何度も、痛い思いをした。自分が悪い子だから。自分の個性がいけないから。そう思わなければ、耐えられなかった。
けれど、この女性が来てからは違う。
研究室に連れていかれることもなく、身体を傷つけられることもない。
いったい、何が起きているのだろう。
壊理は、隣に座る女性をそっと見上げた。
長いまつ毛に、綺麗な瞳。大人っぽくて、まるでお人形さんのように美しい人。いつも優しく笑ってくれるけれど、その笑顔の奥には、何か秘密が隠されているような気がした。
しばらく迷ったあと、壊理は小さな声で尋ねた。
「……おねぇちゃんは、だれなの?」
女性の手が、ぴたりと止まった。
それから彼女は、壊理の顔を覗き込むように身を屈めた。
「ん?」
「……おねぇちゃんは、だれ?」
もう一度尋ねる壊理の声は、先ほどよりも少しだけはっきりしていた。
女性は一瞬、目を丸くした。
「ふふっ」
思わず零れたような、柔らかな笑みを浮かべた。
それは、これまで壊理が見てきた大人たちの笑顔とはまるで違っていた。何かを企んでいるような、けれど不思議と安心できるような。まるで秘密を共有する仲間を見つけた時のような笑顔だった。
彼女は壊理の小さな手を優しく包み込む。
「私はね……」
そっと顔を近づけると、うっとりするほど甘く、とろけるような笑顔で囁いた。
「壊理ちゃんを助けに来た、ヒーローだよ」
「……っ!」
壊理の瞳が、大きく見開かれた。