第13章 ヒーロー仮免試験
もちろん、二人が誰かを傷つけるつもりだったなら、話は別だ。
けれど昨夜、彼女が見たのは、ただ並んで歩いていく二人の背中だった。
だから、何も言わなかった。
そして今も。
「……本当に、子どもみたい」
彼女は、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
その言葉に気づいたのか、隣にいた麗日が首を傾げる。
「ん? 何か言った?」
「ううん、何でもない」
彼女は微笑んで首を横に振った。
視線の先では、爆豪が緑谷に食ってかかり、緑谷も負けじと言い返している。
「テメェ、こっち見てんじゃねぇ!」
「み、見てないよ!」
「見てただろうが!」
「だから見てないってば!」
「……はぁ」
彼女は思わず苦笑した。
昨夜、二人の間で何があったのかは知らない。
ただ、いつもとは少し違う何かが、二人の間で動き始めているような気がした。
それを知るのは、きっと彼ら自身でいい。
「ほら、みんな。そろそろ行こう?」
彼女が声をかけると、クラスメイトたちはそれぞれ鞄を手に取り始めた。
「そうだな。遅刻したら俺たちまで相澤先生に怒られるし!」
「爆豪と緑谷は、しっかり反省しろよー!」
上鳴が二人に向かって手を振る。
「誰が反省なんかするか!」
「かっちゃん、そういうところだよ……!」
「うるせぇ、デク!」
また始まった言い争いに、クラスメイトたちは揃って呆れた顔をした。
「ほんっと、ガキなんだから……」
誰かがぼそりと呟き、笑いが起こる。
彼女もその輪に加わり、みんなと一緒に寮を出た。
背後では、謹慎を言い渡された二人が、まだ何やら言い合っている。
彼女は振り返らなかった。
他人の秘密を暴くことよりも、いつか本人たちが自分の意思で語ってくれることを待ちたい。
それは、彼女自身が誰かにそうしてほしいと願っているからかもしれなかった。
朝の光が、雄英の校舎を照らしている。
彼女はクラスメイトたちと並んで歩きながら、静かに前を向いた。
自分にも、まだ誰にも話せないことがある。
けれど、いつか。
自分の意思で、自分の言葉で話せる日が来るのだろうか。
そんなことを考えながら、彼女はいつもの穏やかな笑みを浮かべた。