第13章 ヒーロー仮免試験
控室を出ると、廊下には試験の後片付けに追われる職員たちの姿があった。遠くからは、合格発表を待つ生徒たちの話し声も聞こえてくる。
つい先ほどまで、あの部屋で交わされていた話が嘘のような、いつもどおりの光景だった。
相澤はしばらく無言で歩いていたが、やがて足を止めた。
「……おい」
「はい?」
彼女は何事もなかったかのように振り返った。
そのあまりにも普段どおりの様子に、相澤は眉間の皺を深くする。
「お前、いつから知っていた」
「何をですか?」
「とぼけるな。公安が、お前をレディ・ナガンの後釜に据えようとしていることだ」
「ああ、そのことですか」
彼女は、ようやく思い出したというように軽く手を叩いた。
「確証はありませんでしたよ。ただ、仮免試験を受けるように言われた時点で、なんとなく嫌な予感はしていました」
「嫌な予感で済ませる話じゃないだろ」
「そうですね」
「そうですね、じゃない」
相澤の声が低くなる。
「お前は五年以上、公安で実務を積んできたと言ったな。あの目良の話が本当なら、今回の試験は最初から、お前を本免許に合格させるためのものだった可能性がある。なぜ俺に話さなかった?」
彼女は少し考えるように首を傾げた。
「先生にお話ししたところで、状況が変わるとは思えなかったので」
「……お前な」
「それに、私は今回の試験を手抜きしたつもりはありません。ほかの受験者と同じように、できる限りのことをしました。結果として合格基準を満たしたのなら、それはそれで構わないかな、と」
あっけらかんと言い切る彼女に、相澤は頭痛を覚えた。
問題は、試験に合格したことではない。
本人の意思とは関係なく、資格を与え、その先にある任務まで既定路線として押しつけようとしていることだ。
「お前は、それでいいのか」
「何がです?」
「公安に戻ったら、レディ・ナガンと同じ立場に置かれる。表向きのヒーロー活動とは別に、誰にも知られない場所で、組織の都合による仕事をさせられる可能性がある。……あの人がどうなったか、お前が知らないはずはないだろ」
その言葉に、彼女の表情がほんのわずかに変化した。
レディ・ナガン。
彼女にとって、忘れられるはずのない人だった。