第13章 ヒーロー仮免試験
そして、彼女の目をまっすぐに見据えた。
「公安委員会の会長から、直接お達しがありました」
部屋の空気が、さらに重くなる。
「君を――第2のレディ・ナガンとして、ダークサイドで活動させたいそうです」
一瞬、何も聞こえなくなった。
彼女は目を伏せたまま、動かなかった。
レディ・ナガン。
かつて公安に所属し、組織の命令のもとで表には出せない任務を遂行してきた女性。彼女にとっては、ただの伝説的なヒーローではない。自分を導き、時には厳しく鍛え上げた、かつての上司だった。
そして、その末路も知っている。
表向きの正義の裏側で、誰にも語れない仕事を背負わされ、やがて組織そのものに絶望した人。
その名前を、今度は自分に重ねようというのか。
「……ふざけるな」
低い声が響いた。
相澤だった。
彼は椅子から立ち上がり、目良を鋭く睨みつけていた。
「本人の意思はどうなっている?」
「相澤先生、落ち着いてください」
「落ち着いていられるか」
相澤の声には、明確な怒りが滲んでいた。
「彼女は今、雄英の生徒としてここにいる。今回の試験だって、ほかの生徒と同じように受けたはずだ。なのに、裏でそんな話が進んでいたのか」
目良は反論しなかった。
できなかったのかもしれない。
彼もまた、組織の決定を伝える立場にすぎないのだろう。
彼女は二人のやり取りを聞きながら、ゆっくりと息を吸った。
仮免試験を受ける前から、どこかで分かっていた。
公安が、自分を簡単に手放すはずがない。
五年以上、表に出せない仕事をこなしてきた。情報を読み、状況を制御し、必要とあれば自分自身さえ駒として扱ってきた。
組織にとって、自分は便利な存在だったのだろう。
だからこそ、雄英で過ごす時間にも意味があった。
同世代の生徒たちと学び、笑い、失敗し、自分の力を誰かを守るために使う。
そこには、公安の任務とは異なる日常があった。
彼女は、もう一度顔を上げた。
その瞳には、先ほどまでの戸惑いとは違う、静かな光が宿っていた。