第13章 ヒーロー仮免試験
意識が遠のきかけた、その瞬間だった。
『……無茶をしたな』
頭の奥に、低く、威厳のある声が響いた。
聞き覚えのある声だった。
夢の中で何度も聞いた、あの声。水面に浮かぶ赤い鳥居の向こうから、黄金の瞳で彼女を見つめていた、巨大な龍の声。
『じっとしていろ』
「……っ!」
彼女が反応するよりも早く、身体の内側から光があふれ出した。
黄金色の光だった。
胸の奥で小さな火種が灯ったかと思えば、それは瞬く間に全身へと広がり、彼女の身体を包み込んでいく。眩しいはずなのに、不思議と目を焼くような強さはない。
まるで、春の日差しに抱かれているような。
それは、ひどく温かな光だった。
「え……?」
彼女を支えていた緑谷が、驚いた声を漏らす。
光は彼女の身体だけにとどまらなかった。彼女の肩を支える緑谷の腕を伝い、その身体へとゆっくり広がっていく。
「うわっ……! な、何これ……!?」
緑谷は目を見開いた。
黄金色の光が、彼女と自分を包んでいる。
先ほどまで全身を苛んでいた痛みが、少しずつ遠ざかっていく。超音波攻撃による頭の不快感も、身体に残っていた打撲の痛みも、まるで温かな湯に溶けていくかのように薄れていった。
やがて、光は静かに収束した。
その場に残ったのは、呆然と立ち尽くす二人と、何が起きたのか理解できずにいる周囲の生徒たちだった。
「……痛く、ない」
緑谷は恐る恐る自分の腕を動かした。
先ほどまで負傷していた箇所を確かめる。肩を回し、足を踏み出し、身体のあちこちに触れてみる。
痛みがない。
あれほど身体に残っていた疲労や不快感までもが、明らかに軽減していた。
「そんな……。僕、さっきまで確かに……」
彼女もまた、自分の身体を見下ろしていた。
先ほどまで感じていた激痛が、嘘のように消えている。
呼吸をするたびに胸を刺していた痛みも、立っていることさえ難しくしていた身体の重さも、超音波によって揺さぶられた頭の奥の不快感も。
何もかもが、消えていた。
傷口にそっと触れてみる。
痛みはない。
皮膚に残っていた傷さえ、跡形もなくなっていた。
「……嘘」
思わず声が漏れた。
彼女は、自分の意思で個性を発動させていない。