第13章 ヒーロー仮免試験
「おもちさん!」
遠くから聞こえた声に、彼女の視線が動く。
緑谷だった。
救護班と負傷者を守るために真堂を助けに向かった彼が、再びこちらへ駆け戻ってくる。その姿を認めた瞬間、彼女の張り詰めていた心が、ほんの少しだけ緩んだ。
――よかった。
胸の奥に、小さな安堵が広がる。
真堂は無事なのだろう。緑谷も戻ってきた。
自分が稼いだ時間は、無駄ではなかった。
彼女はほっと息をついた。
けれど、その一瞬の緩みを見逃すほど、緑谷は状況を見誤ってはいなかった。
彼はギャングオルカの姿を捉えると、地面を蹴った。
「うおおおおっ!」
全身の力を乗せた一撃。
「デトロイトスマッシュ!!」
緑谷の蹴りが、ギャングオルカへと叩き込まれる。
巨体が大きく揺らぎ、周囲の空気が震えた。
そして――。
『試験終了! ただちに戦闘を中止してください!』
試験終了を告げる合図が、会場全体に響き渡った。
その瞬間、張り詰めていた空気が、わずかに緩む。
彼女はようやく、肩の力を抜いた。
「……はぁ……」
立っているだけで精一杯だった身体から、一気に力が抜けていく。
まずい。
そう思ったときには、膝が折れかけていた。
「危ない!」
緑谷が慌てて駆け寄る。
彼女は倒れまいと踏ん張ろうとしたが、もう限界だった。無理やり動かしていた身体が、ようやく限界を訴え始めていた。
「……ちょっと、頑張りすぎたかしら」
かすれた声でそう呟き、彼女は苦笑する。
緑谷は彼女の身体を支えながら、傷だらけの姿を見て顔を青ざめさせた。
「ちょっとどころじゃないよ! こんなに怪我をして……!」
その声には、怒りにも似た心配が滲んでいた。
彼女は返事をしようとしたが、代わりに小さく咳き込んだ。
「ごめん、緑谷くん。……でも、間に合ってよかった」
そう言って、彼女は周囲を見渡す。
轟も、夜嵐も、まだ地面に伏している。真堂は救護班のもとへ運ばれ、ほかの生徒たちもそれぞれの場所で戦いを終えていた。
誰もが傷つき、疲れ果てていた。
それでも、守り抜いたものがある。
彼女はそれを確かめるように、ゆっくりと目を閉じた。
今度こそ、身体を休めてもいい。
そう思った途端、意識がふっと遠のきかけた。