第13章 ヒーロー仮免試験
一度、膝が崩れた。
それでも彼女は倒れなかった。地面に手をつき、もう一度、足に力を込める。
ふらつく身体を支えながら、どうにか立ち上がった。
視界は揺れている。額から流れた汗が頬を伝い、口の中には鉄の味が広がっていた。呼吸をするたびに、身体のあちこちが痛む。
それでも、彼女はギャングオルカの前に立った。
ギャングオルカが目を見開く。
「あれだけの攻撃を受けておいて、まだ立ち上がるのか!?」
その声には、隠しきれない驚きが滲んでいた。
彼女は顔を上げた。
「げほっ……まだ、終わってない」
咳き込みながらも、彼女は不敵に笑った。
その笑みは、いつもの穏やかなものとは違っていた。
傷つき、満身創痍で、今にも倒れそうな女が、それでもなお笑っている。
その姿には、妙な不気味さがあった。
彼女は知っていた。
敵が何を嫌がるのか。
どれだけ攻撃を受けても、倒れたはずの相手が再び立ち上がってくること。追い詰めたと思った相手が、余裕すら感じさせる笑みを浮かべること。
それは、敵に自分の限界を悟らせないための駆け引きだった。
本当は、もう一歩踏み出すことさえ難しい。
自分の身体がどこまで持つのかも分からない。
それでも、相手にはそれを悟らせない。
――まだ何か隠しているのではないか。
――まだ反撃の手段を残しているのではないか。
そんな疑念を抱かせるだけで、敵の判断を鈍らせることができる。
彼女が狙っているのは、勝利ではなかった。
時間だ。
少しでも長く、ギャングオルカの意識を自分に向けさせること。
救護班や負傷した一般市民へ、ヴィランの手下たちが迫る時間を削ること。
そして、仲間たちが反撃するためのわずかな隙を作ること。
それができるのなら、自分が囮になることに迷いはなかった。
「……しぶとい女だ」
ギャングオルカが低く唸る。
彼女は答える代わりに、口元をわずかに吊り上げた。
身体は限界だった。
だが、心までは折れていない。
その執念を前に、ギャングオルカもまた、彼女を単なる負傷者として扱うことはできなくなっていた。
そのときだった。