第13章 ヒーロー仮免試験
彼の視線。部下たちの配置。受験生たちの動揺。そして、救助対象者が置かれた状況。
混乱が広がる前に、全体を把握する。
公安で叩き込まれた習慣が、彼女の思考を瞬時に切り替えていた。
――来たね。
予想外の事態。
それは、ただヴィランが現れたというだけではない。
今までの救助活動を続けながら、新たな脅威に対応しなければならないということだ。
おもちは、隣にいる緑谷へと視線を向けた。
「緑谷君」
「えっ、あ、はい!」
「慌てないで。今までやってきたことを、全部捨てる必要はないよ」
彼女は落ち着いた声で告げた。
「救助が必要な人たちは、まだここにいる。ヴィランへの対応も必要だけど、だからって、助けを待っている人たちを置いていくわけにはいかないでしょう?」
「……!」
「まずは状況を整理しよう。誰が救助を続けて、誰がヴィランを食い止めるのか。私たちがバラバラになったら、相手の思うつぼだよ」
緑谷は、はっと息を呑んだ。
そうだ。
敵が現れたからといって、目の前の負傷者がいなくなるわけではない。
ヒーローは、敵を倒すことだけが仕事ではないのだ。
「……うん! 分かった!」
緑谷は力強く頷いた。
おもちは、再び戦場を見渡した。
その眼差しには、先ほどまで子どもに向けていた柔らかさとは異なる、静かな鋭さが宿っていた。
人を安心させるための優しさと、現場を支配するための冷静さ。
その両方を、彼女は持ち合わせていた。
そして今、試されようとしている。
彼女自身の力だけではない。
彼女が、仲間たちとともにどこまでのことを成し遂げられるのか。
ギャングオルカが、ゆっくりと受験生たちを見渡す。
「さあ、どうする?」
その問いに、まだ誰も答えられなかった。
だが、おもちはすでに、次の一手を考え始めていた。