第13章 ヒーロー仮免試験
試験会場。
救助活動を続けていた受験生たちは、地響きのような足音に気づき、次々と顔を上げた。
「……ん?」
瀬呂が振り返る。
砂埃の向こうから、大柄な男が姿を現した。
その顔つきは恐ろしく、鋭い眼光が受験生たちを射抜く。異様な存在感を放つ巨体。その背後には、統率の取れた動きで歩く大勢のヴィラン役たちが続いていた。
先頭を歩く男の名は、ギャングオルカ。
普段は市民を守る側に立つプロヒーローだが、今回の彼は違った。
相手を威圧するような歩き方も、獲物を見定めるような視線も、まるで本物のヴィランそのものだった。
「おいおい……なんだ、あれ」
上鳴の顔から笑みが消える。
「プロヒーロー……だよな?」
切島も思わず身構えた。
その周囲では、ほかの受験生たちも異変に気づき始めていた。
救助演習のために設けられた模擬災害の現場に、明らかに異質な集団が現れたのだ。
ギャングオルカは立ち止まると、周囲の負傷者役や瓦礫、救助活動にあたる受験生たちを一瞥した。
そして、口元を歪める。
「……ずいぶんと楽しそうじゃねえか」
低く響く声に、その場の空気が変わった。
「せっかくの救助活動だ。邪魔が入ったら、どうする?」
彼が一歩踏み出す。
背後のヴィラン役たちも、一斉に動き始めた。
「逃げ惑う市民を守りながら、俺たちを止めてみろ」
その言葉を合図に、彼らは救助現場へと散開していく。
負傷者役の近くへ向かう者。進路を塞ぐ者。受験生たちの連携を崩すように動く者。
まるで、本当に市民を襲撃しに来たかのようだった。
「なっ……!」
緑谷が息を呑む。
救助対象者は、まだ残っている。
周囲には崩落の危険がある建物もあり、負傷者の搬送も終わっていない。
ここでヴィランが現れたら――。
彼らがこれまで積み上げてきた救助活動は、どうなるのか。
緑谷は一瞬、判断に迷った。
その隣で、おもちはギャングオルカの動きを静かに観察していた。