第13章 ヒーロー仮免試験
「大丈夫ですか!?」
緑谷が駆け寄った先には、頭から血を流して泣いている子どもがいた。
「うっ……おじいちゃんが……!」
子どもは震える指で、崩れた建物の方を指差した。
「おじいちゃんが、下敷きになっちゃったの……! 痛いよ……怖いよ……!」
頭部からの出血。激しい動揺。そして、瓦礫の下に取り残された高齢者の存在。
緑谷は周囲を見渡し、焦ったように声を上げた。
「これは大変だ……! えっと、まずはおじいさんを助けるべきか、それともこの子の手当てを……!?」
どちらも放っておけない。
目の前の子どもは負傷している。だが、その祖父も瓦礫の下敷きになっているという。
救助を急ぐべきなのか。安全を確認すべきなのか。
判断に迷う緑谷の隣を、ひとつの影が通り過ぎた。
「ちょっと見せてね」
おもちだった。
彼女は子どもの前に膝をつくと、まず意識の状態を確認した。呼びかけへの反応、呼吸、脈拍。頭部の出血だけでなく、全身にほかの外傷がないかも慎重に観察する。
「お名前、言えるかな?」
「……うん」
「よかった。今、どこかほかにも痛いところはある?」
子どもが首を横に振るのを確認し、彼女は周囲の安全にも目を配った。
そのうえで、子どもと目線が合う高さまで身をかがめる。
「もう大丈夫だよ」
先ほどまでの冷静な判断を下す姿からは想像もつかないほど、柔らかな表情だった。
「怖かったね。急にこんなことになって、びっくりしたよね」
彼女は、子どもの不安を否定しなかった。
「でも、私たちが来たから大丈夫。おじいちゃんのことも、ちゃんと確認するからね。だから、今は少しだけ、私たちにお話を聞かせてくれる?」
優しく、ゆっくりと。
子どもが安心して話せるように、言葉を選んで声をかける。
泣いていた子ども役の演者は、一瞬、演技を忘れそうになった。
目の前の女性受験生の声には、相手を安心させる温かさがあった。
ただ「大丈夫」と繰り返すだけではない。
自分の恐怖を理解してくれている。そして、助けようとしてくれている。
その実感が伝わる声だった。