第13章 ヒーロー仮免試験
「特に気に入っているのは、背中のデザインなの」
「背中、ですか!?」
「ええ。ちょっと見ていてね」
そう言うと、彼女は椅子から立ち上がり、くるりと身体の向きを変えた。
そして、ポニーテールにまとめた長い髪を片手でさらりと流す。
艶やかな髪が肩を滑り、普段は隠れている背中が、夜嵐の目の前に現れた。
「ここが、こだわりポイントなの」
振り返りざまに、彼女が微笑む。
肩越しに向けられた青い瞳。
すっと伸びた首筋。
大胆に開いた背中と、黒い衣装が描く優美な曲線。
その姿は、まるで絵画に描かれた見返り美人のようだった。
――背中。
――背中、いい……!!
夜嵐の思考が、完全に停止した。
つい先ほどまで、彼女の個性や戦闘技術について熱弁を振るっていた男は、今や一言も発せずに立ち尽くしている。
なんてきれいなんだ。
その言葉しか、頭に浮かばなかった。
「夜嵐くん?」
返事がない。
「……どうかした?」
彼女が不思議そうに首を傾げた、その瞬間。
夜嵐が、がしっと彼女の両肩を掴んだ。
「……っ!?」
「おもちさん!!」
「えっ、な、何?」
頭の上に、いくつもの疑問符が浮かぶ。
夜嵐の顔には、先ほどまでの爽やかな笑顔とは違う、鬼気迫るほどの熱意がみなぎっていた。
「自分は……!!」
彼の瞳が、ぎらりと輝く。
「あなたのことが、ますます好きになりましたあああああ!!」
「…………はい?」
待機所に、野太い叫び声が響き渡った。
周囲の候補生たちが、一斉に振り返る。
「おい、何が起きた!?」
「夜嵐、さっきまで普通に話してなかったか!?」
「いや、あの距離感はもう普通じゃなかっただろ!」
そんな騒ぎをよそに、夜嵐は彼女の肩を掴んだまま、熱烈な眼差しを向けていた。
その目つきが、怖い。
先ほどまでのまっすぐで爽やかな青年はどこへ行ったのか。今の彼は、獲物を見つけた野獣のような迫力を放っていた。
もちろん、本人に悪意はない。
ただ、彼女への好意が限界を突破しただけである。
しかし、そんな事情を知ったところで、肩を掴まれている側はたまったものではない。
「……あの、夜嵐くん?」
「はいっ!!」
「手を離してもらえる?」
「はっ!! 申し訳ありません!!」
ぱっと手が離れる。
彼女はすかさず一歩、後ろへ下がった。