第13章 ヒーロー仮免試験
最初はテーブルを挟んで向かい合っていたはずなのに、気づけば隣の椅子を引き、身をかがめて彼女の顔を覗き込んでいる。
悪気はない。
むしろ、相手に真剣に向き合おうとするあまり、距離感の調整を忘れているのだろう。
彼女は穏やかな笑みを浮かべたまま、ほんの少しだけ上体を引いた。
「夜嵐くん、その…近いんだけど」
「はっ!! 申し訳ありません!!」
慌てて背筋を伸ばす夜嵐。
しかし、三秒後にはまた身を乗り出していた。
「ですが!! 自分、どうしてもお聞きしたいことがあるんです!!」
「……何?」
「あなたは、どんな男性がお好きなんですか!!」
彼女は内心で、小さく息を吐いた。
こういう質問には、答え方が難しい。
曖昧に返せば期待を持たせるかもしれないし、正直に答えたところで、彼が簡単に諦めるとも思えない。
何より、今は仮免試験の最中だ。
「そうね……」
彼女は少し考える素振りを見せてから、カップに残ったジュースを一口飲んだ。
「一緒にいて、無理をせずにいられる人かしら。お互いを尊重できて、言葉だけではなく、行動でも信頼を示してくれる人」
公安の人間としてなら、もっと具体的な条件はいくらでも挙げられる。
けれど、今の彼女が口にしたのは、仕事上の評価基準ではなく、もっと個人的な願いに近いものだった。
「なるほど……!! 信頼!! 尊重!! 行動で示す!!」
夜嵐は、彼女の言葉を一つ残らず胸に刻むかのように頷いた。
「分かりました!! 自分、あなたに信頼していただける男になります!!」
「ふふ……ずいぶんと熱心なのね」
「当然であります!!」
そのやり取りを、離れた場所から見守っていた男子生徒たちは、もはや言葉を失っていた。
「……すげえな、あいつ」
「いや、すごいっていうか、強すぎるだろ……」
「告白して、断られてもいないのに、もう次の約束を取り付けようとしてるぞ……」
「俺なら絶対無理だ……」
羨ましさを通り越し、畏敬の念すら生まれ始めていた。
何しろ相手は、テレビで全国に知られた美少女だ。
しかも、一次試験では圧倒的な実力を見せつけ、他校の候補生たちを早々に脱落させている。