第13章 ヒーロー仮免試験
「……みんな、早く来るといいのだけれど」
そう呟き、彼女はもう一つ、小さな焼き菓子を手に取った。
その何気ない仕草に、少し離れた場所から見ていた男子生徒が、またもや顔を赤くする。
「……笑った」
「は?」
「今、ちょっと笑っただろ……!」
「だから、話しかけてこいって!」
「無理だってば!!」
待機所の片隅で、そんなやり取りが再び始まった。
そして、彼らの視線の先では、公安仕込みの観察眼を持つ少女が、ケータリングの費用対効果について、ひそかに考えを巡らせていた。
――これだけの種類を揃えるなら、発注先も複数なのかしら。いや、受験者の食物アレルギーへの対応も必要だし、衛生管理もある。そう考えると、運営側もなかなか大変ね。
美貌と実力を兼ね備えた謎めいた少女。
その正体を知らない候補生たちは、彼女に話しかけるだけで一大決心を必要としている。
けれど、彼女の頭の中にあるのは、試験運営の裏事情と、仲間たちの安否と、目の前のお菓子のことばかりだった。
どうやら彼女は、自分が待機所でちょっとした騒ぎの中心になっていることに、最後まで気づきそうになかった。
ケータリングを一通り味わい、満足げにジュースのカップを置いた、そのときだった。
「おおおおお!! やっぱりいらっしゃったんですね!!」
やけに通る、威勢のいい声が待機所に響き渡った。
周囲の候補生たちが一斉に振り返る。
人混みを縫うようにして、こちらへ真っすぐ歩いてくる大柄な男子生徒がいた。鍛え上げられた逞しい体躯に、太陽のように明るい表情。見覚えのあるその姿に、おもちはぱちりと瞬きをした。
「……夜嵐くん?」
「はいっ!! 夜嵐イナサです!! 覚えていてくださったんですね!!」
彼女が名前を呼んだ途端、夜嵐の顔がぱっと輝いた。
「もちろん、覚えているわ。試験前に、ずいぶんと元気な挨拶をしてくれたものね」
にこりと微笑む彼女。
それは、相手を不快にさせない程度の、社交的で穏やかな笑顔だった。
しかし、夜嵐には十分すぎたらしい。
「おおおお!! 覚えていてくださっただけでなく、あのときのことまで!! 自分、感激であります!!」
胸の前で両手を握りしめ、全身で喜びを表現する。