第13章 ヒーロー仮免試験
公安で叩き込まれた状況判断。
相手の意図を読み、戦場の情報を整理し、最小限の動きで最大の成果を得る。
それは、彼女が長年培ってきた技術の一つだった。
ただし、今回はあくまで仮免試験。
公安の人間として培った能力を、そのまま表に出すわけにはいかない。
目立ちすぎず、しかし仲間を危険に晒さない。
その絶妙な線引きを、彼女は瞬時に見定めていた。
「みんな、私の近くに集まりすぎないで。互いの動きを邪魔しない距離を保って。攻撃が来たら、回避を優先して」
「分かった!」
緑谷がすぐに応じる。
「八百万さん、相手の攻撃に対応できるよう準備を。飯田くんは周囲の状況を見て、退路を確保してほしい」
「了解ですわ!」
「蛙吹さんと麗日さんは、地形を利用して動けるようにしておいて。瀬呂くんは上からの攻撃を警戒して」
次々と指示を出す彼女に、緑谷は一瞬目を見張った。
指示は的確で、無駄がない。
まるで、戦場の状況を整理することに慣れているかのようだった。
――いや、実際に慣れているのだ。
彼女の過去を知らない緑谷には、その理由までは分からなかったが。
「おもちさん、君は……?」
「私は、相手の動きを止めるわ」
彼女は短く答えた。
そして、ゆっくりと片手を持ち上げる。
彼女の個性は、ただ強大な力で相手をねじ伏せるためのものではない。
力の使い方を最適化し、必要な範囲に、必要なだけ作用させる。
それこそが、彼女が今、目指している制御の形だった。
崖上の候補生たちが、一斉にボールを構える。
「いくぞ! 雄英を落とせ!」
次の瞬間、無数のボールが宙を舞った。
「来るよ!」
緑谷の叫びが響く。
おもちは一歩前へ出た。
「――不可侵領域」
静かな声が、喧騒の中に溶けていく。
彼女を中心に、目には見えない境界が広がった。
飛来するボールの軌道が、わずかに逸れる。
すべてを大きく弾き返すのではない。仲間に直撃する軌道だけを見極め、必要最小限の干渉で攻撃をかわす。
いくつものボールが、彼らの身体をかすめるように通り過ぎ、地面へと落ちた。