第13章 ヒーロー仮免試験
彼女はそっと息を吐いた。
――目立ちすぎるのは避けたいところだけれど。
改良したコスチュームに、拳銃を隠すホルスター。周囲の受験者たちが彼女の装備をちらちらと見ているのも気づいていた。
体育祭で全国中継された彼女の顔を覚えている者もいるかもしれない。
ここで派手に活躍すれば、また注目を集めることになる。
それは、潜入任務を考えれば望ましいことではなかった。
だが、試験に落ちるわけにもいかない。
上司の言葉が脳裏によみがえる。
『これも捜査のうちだ』
――はいはい。分かってますとも。
彼女は内心で苦笑した。
どうやら今回も、与えられた役割を果たすしかないらしい。
そのとき、壇上の目良が最後の説明に入った。
「……それでは、これより一次試験を開始します。」
会場に緊張が走る。
生徒たちが一斉に動き始めた。
緑谷は拳を握り、轟は静かに前を見据える。爆豪は獲物を見つけた獣のように笑い、飯田は仲間たちに注意を促していた。
彼女もまた、ゆっくりと歩き出す。
長い髪が背中で揺れ、黒いコスチュームが陽光を受けて艶やかに光った。
――さて。
青い瞳が、会場全体を捉える。
――どんな人たちがいるのかしら。
美しい微笑みの奥で、彼女の観察眼が静かに動き始めていた。
ヒーロー候補生としての試験。
そして、公安の人間としての任務。
二つの顔を使い分けながら、彼女は最初の一歩を踏み出した。