第13章 ヒーロー仮免試験
――お気の毒に……。
彼女は心から同情した。
目良とは、公安の仕事を通じて顔を合わせる機会があった。
普段から疲れた様子ではあるが、今日は一段とひどい。
おそらく、まともに眠れていないのだろう。
彼女がそんなことを考えていると、壇上の目良がマイクを口元に寄せた。
「……えー、皆さん。本日は、プロヒーロー仮免許取得試験にお集まりいただき、ありがとうございます……」
声に覇気がない。
というより、今にも眠ってしまいそうだった。
「……これから、試験の概要について説明します……」
目良は手元の資料に視線を落とした。
「例年、この試験では受験者のおよそ五割が合格しています……」
会場が静まる。
「しかし……」
そこで、彼は一度言葉を切った。
重たそうな瞼が、ゆっくりと持ち上がる。
「……現在のヒーロー社会は、大きな転換期を迎えています」
その声から、先ほどまでの気だるさがわずかに消えた。
「オールマイトの引退。そして、ステインの思想に端を発する、偽りの正義に先導されたヴィランたちの台頭。
社会を支えてきた象徴が姿を消したことで、人々の不安は大きくなり、ヒーローを取り巻く環境も変わりつつあります」
会場の空気が引き締まった。
彼女は静かに壇上を見つめる。
オールマイトという存在が、どれほど大きな意味を持っていたのか。
それを、彼女は誰よりも近くで見てきた。
人々を安心させる象徴。どんな困難にも立ち向かい、最後には笑顔を見せるヒーロー。
その存在が失われた今、社会は新たな時代へと移り始めている。
「これからの時代に求められるのは、ただ強いだけのヒーローではありません……」
目良は淡々と続けた。
「危機に対応する判断力。状況に応じた行動。そして、何よりも人々の命を守るという責任感……」
彼女は目を細めた。
公安委員会が求めているもの。
それは、表向きにはヒーローの質の向上だ。
だが、その裏には、これから訪れるかもしれない危機への備えもある。
ヒーロー社会が揺らいでいる今、次世代を担う人材を選別し、早い段階からその質を確保することは、公安にとっても重要な課題だった。
――なるほど。そういうことね。