第13章 ヒーロー仮免試験
「お前こそ、大丈夫か」
「私?」
「急にあんなことを言われて、困っただろ」
彼女は少し驚いたように目を見開いた。
それから、柔らかく笑った。
「ええ。びっくりしたわ。でも、悪い人には見えなかったから」
「……そうか」
「ふふ。もしかして、心配してくれたの?」
「普通に聞いただけだ」
「そう?」
彼女は楽しそうに首を傾げる。
「ありがとう、轟くん」
その笑顔を向けられた瞬間。
轟の心臓が、また大きく跳ねた。
――ドクン。
先ほどのバスの中と同じだった。
いや、今のほうがずっと大きい。
「…………」
轟は顔を背けた。
「……試験が始まる。行くぞ」
「あ、待って。そんなに急がなくても……」
彼女が後を追う。
その背中を見ながら、芦戸がにやりと笑った。
「……ねえ、耳郎」
「何?」
「今の轟、絶対おかしかったよね?」
「うん。いつもより分かりやすかった」
「だよねぇ?」
上鳴が二人の間に割り込む。
「え、待って。もしかして轟って……」
「しっ」
耳郎が人差し指を唇に当てた。
「本人が気づいてないんだから、そっとしておこうよ」
「いや、でもさぁ……!」
「上鳴」
前方から爆豪の声が飛んだ。
「余計なことを言うな。試験に集中しろ」
「は、はい!」
爆豪は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
けれど、その視線は一瞬だけ、彼女の後ろを歩く轟へと向けられていた。
――あの半分野郎。
爆豪は小さく舌打ちした。
どうやら、仮免許試験が始まる前から、厄介な競争相手が一人増えたらしい。
もっとも、その競争に参加していることを、轟本人はまだ認めていない。
そして彼女もまた、自分に向けられた二つの視線の意味を、知らない。
広大な試験会場の向こうでは、受験者たちが続々と集合場所へ集まっている。
やがて始まる、プロヒーロー仮免許試験。
それぞれの実力が試される一日が、幕を開けようとしていた。
彼女は歩きながら、そっと青い瞳を細めた。
任務として臨む試験。
仲間とともに挑む試験。
そして、思いがけず芽生えた、誰かの恋心。
今日という日は、どうやら退屈とは無縁になりそうだった。