第13章 ヒーロー仮免試験
すると彼女は安心したように力を抜き、そのまま眠りに落ちていく。
さっきまで、今日は絶対に寝ないと言っていたのに。
「……やっぱり寝たな」
轟が小さく呟く。
返事はない。
彼女は完全に眠っていた。
そのとき、ふわり、と。
かすかに花の香りがした。
甘いのに強く主張するようなものではない。
どこか柔らかくて、落ち着く香り。
轟は一瞬、目を伏せた。
――この匂い。
どこかで嗅いだことがある。
はっきりとは思い出せない。
ただ、不思議と昔の記憶を刺激する。
母親のそばにいた頃。
家の中に漂っていた、柔らかな香り。
もちろん、同じ香水というわけではない。
それでも、どこか似ている。
「……」
轟は彼女を見る。
いつもより幼く見える寝顔。
起きているときは、何を考えているのか分からないことも多い。
それなのに、眠っているときだけは、驚くほど無防備だった。
轟の左側の温かさの中では、いつもより深く眠っている。
――だから、ここで寝るのか。
轟は、なんとなく納得した。
バスが大きく揺れた。
「……そろそろ起こすか」
試験会場が近づいている。
轟は彼女を起こそうと、少し身体を傾ける。
「おい」
反応がない。
「……起きろ」
もう一度声をかける。
彼女は小さく眉を動かしただけだった。
轟は困ったように息を吐く。
「試験、始まるぞ」
今度は少しだけ顔を近づけて声をかけた。
「起きろ」