第12章 編め、必殺技!
「い、今の……何が起きたんだ?」
思わず呟いた声に、彼女が振り返った。
銃声の余韻が消えていくなか、二人の視線が重なる。
緑谷は息を呑んだ。
いつもの彼女なら、穏やかな微笑みを浮かべて「どうしたの?」と声をかけてくるはずだった。
けれど、今の彼女は違った。
銃を扱っていたときの冷徹な眼差しはすでに消えかけていたものの、その奥には、まだ知らない彼女の一面が確かに残っている。
「……緑谷くん?」
「えっ、あっ、うん! ご、ごめん! 勝手に見たわけじゃなくて、僕は発目さんに用があって……!」
慌てて弁解する緑谷に、彼女は小さく首を傾げた。
それから、手にしていた拳銃を慣れた手つきで安全な状態に戻すと、彼の方へ歩み寄る。
コツ、コツ、とブーツの音が響く。
緑谷は、なぜだか逃げることもできず、その場に立ち尽くしていた。
彼女は彼の目の前で足を止めると、そっと人差し指を唇に当てた。
「しー……」
悪戯を思いついた子どものように、口元が弧を描く。
「皆には内緒にしてくれる?」
その笑顔は、いつもの彼女と何も変わらない。
美しく、余裕があって、少しだけ人をからかうような笑み。
けれど、緑谷には分かってしまった。
今の彼女は、自分が何を見せたのかを理解している。
そして、それを隠すことにも、誰かを黙らせることにも、慣れているのだ。
「……う、うん。もちろん、誰にも言わないよ」
そう答えながらも、緑谷の頭の中では疑問が次々と浮かんでいた。
どうして彼女は、あんなにも自然に銃を扱えるのだろう。
あの構え方。標的を見定める目。引き金を引くまでの一瞬の静けさ。
ただ射撃を練習していた、というだけでは説明できない何かがあった。
「ありがとう、緑谷くん」
彼女は満足そうに微笑むと、彼の横を通り過ぎた。
すれ違いざま、ふわりと甘い香水の香りが漂う。
その背中は堂々としていて、少しも動揺していなかった。
まるで、先ほどの光景など何事もなかったかのように。
「……あ」
緑谷は、彼女の背中を見送りながら、ふと気づいた。