第12章 編め、必殺技!
ホークスは、彼女の首筋にそっと唇を寄せていた。
ほんの一瞬。
けれど、そこに残された感触は、はっきりとしていた。
「……ホークス、あなた……!」
彼女が抗議するよりも早く、彼は顔を上げた。
いつもの笑み。
しかし、その金色の瞳には、先ほどまでとは違う熱が宿っていた。
「ごめんね。……ちょっと、独占欲が出ちゃった」
悪びれた様子でそう告げる男に、彼女は絶句した。
「あなたねぇ……!」
「じゃ、今度こそ帰るよ」
ホークスは窓枠に足をかけ、赤い翼を広げた。
「返事、待ってるから」
「待ちなさい、そういう問題じゃ――!」
彼女の言葉を最後まで聞かず、ホークスは夜空へと飛び立っていった。
赤い翼が闇に溶けていく。
残された彼女は、数秒間その場に立ち尽くした。
それから、ゆっくりと首筋に手を当てる。
「……最悪」
小さく呟き、深く息を吐いた。
その直後、扉の向こうから再び声がした。
「おもちちゃん?大丈夫?なんか、さっきから変じゃない?」
芦戸だ。
彼女は慌てて髪を整え、部屋の中を見回した。灰皿を片づけ、窓を閉める。ホークスがいた痕跡がないかを確認してから、扉へと向かった。
「ごめんなさい、ちょっと着替えていたの」
なるべく自然な声を作り、扉を開ける。
「……どうしたの?」
そこには、心配そうな顔をした芦戸が立っていた。
「いや、なんか男の人の声がした気がしてさ。気のせいだったかな?」
「テレビよ。音量を下げ忘れていたの」
我ながら、苦しい言い訳だった。
けれど、芦戸はそれ以上追及することなく、あっさりと笑った。
「そっか!じゃあ、また明日ね。おやすみ!」
「ええ。おやすみなさい」
彼女は笑顔で見送り、扉を閉めようとした。
そのとき。
「……おい」
低く、不機嫌そうな声が聞こえた。
廊下の少し離れた場所に、爆豪勝己が立っていた。
どうやら自室へ戻る途中、芦戸に呼び止められたらしい。
「爆豪くん?」
「芦戸が騒いでたから、何かと思って来ただけだ」
「そ、そうなのね」
彼女は平静を装った。
だが、爆豪の目は、彼女の顔をじっと見つめていた。
先ほど、扉の向こうから聞こえた声。
女の声だけではなかった。
確かに、男の声がした。
しかも、聞き覚えのない声だった。