第12章 編め、必殺技!
「じゃあ、今日は帰るよ」
「……そうしてちょうだい」
彼女は安堵しかけた。
しかし、ホークスは窓のほうへ向かう途中で足を止めた。
「でもさ」
「何?」
「俺、結構諦めが悪いんだよね」
「……でしょうね」
「うん。だから、君がちゃんと考えられるようになるまで待つよ」
そう言って笑う顔は、いつもの軽薄なものに戻っていた。
彼女が呆れたように息を吐いた、そのとき。
コン、コン。
部屋の扉がノックされた。
二人の動きが、同時に止まる。
「おもち?起きてる?」
聞こえてきたのは、芦戸の声だった。
「……っ!」
彼女は、音を立てないようにホークスを振り返った。
ホークスもさすがに状況を察したらしく、口元に指を当てる。
「ねえ、今、誰かと話してなかった?」
扉の向こうから、芦戸が不思議そうに尋ねた。
「男の人の声がした気がするんだけど……」
最悪だった。
よりによって、芦戸。
普段から好奇心旺盛で、恋愛話ともなれば誰よりも食いついてくる少女だ。
ここで見つかれば、明日の朝には女子全員に知れ渡っているだろう。
いや、場合によっては男子にまで広まる。
彼女はホークスの腕をつかみ、耳元で囁いた。
「……今すぐ帰って」
「はいはい」
「絶対に、もう二度とこんなことしないで」
「それは約束できないかな」
「ホークス!」
「冗談、冗談」
彼は笑いながら窓へ向かった。
だが、ベランダへ出る直前、ふと彼女を振り返る。
「最後に、一つだけ」
「何よ……」
「君が誰にも言えないことを抱えてるのは知ってる。だから、今すぐ全部話してほしいとは言わない」
いつになく穏やかな声だった。
「でも、俺の前では少しくらい、素直になってもいいんだよ」
彼女は、返事をしなかった。
できなかった、というほうが正しい。
ホークスはその沈黙を受け止めるように微笑むと、彼女のそばへ戻ってきた。
「……おやすみ」
「分かったから、早く――」
言い終えるより先に、彼の顔が近づいた。
首筋に、柔らかな感触。
「……っ!」
彼女が息を呑む。