第12章 編め、必殺技!
芦戸は悪戯っぽく笑った。
「ねえ、何回? 十回? 二十回? まさか、もっと!?」
「そんなにないわよ」
彼女は苦笑した。
「えー! じゃあ、何回?」
「そうね……」
彼女は少し考え、口を開きかけた。
「特に、何も――」
なかった。
そう答えるつもりだった。
恋愛に時間を割くこともなく、誰かと付き合うこともなく、ただ目の前の仕事をこなしてきた。
告白された回数など、数えるほどもない。
……そう、答えるはずだった。
ふと、記憶の片隅に、ひとつの光景がよみがえった。
白い病室。
消毒液の匂いが残る廊下。
そして、病院の屋上に吹いていた、少し冷たい風。
あの日、彼女は屋上で、思いがけない人物と二人きりになっていた。
金色の髪。
赤い翼。
いつものような軽薄な笑みを浮かべながらも、その目だけは、妙に真剣だった青年。
――ホークス。
『……俺、君のことが好きだよ』
あまりにも突然で、あまりにも真っ直ぐな言葉。
いつもの彼なら、冗談めかして口にしそうな台詞だった。
けれど、あのときの彼は違った。
風に揺れる赤い羽根を背負い、逃げ道を塞ぐこともなく、ただ彼女の返事を待っていた。
あの表情を、彼女は今でも覚えている。
「…………」
彼女の手元で、紅茶の水面がかすかに揺れた。
(……そういえば)
告白、されたのだった。
しかも、よりによってホークスに。
「……おもち?」
芦戸が不思議そうに顔を覗き込む。
「どうしたの? 急に黙っちゃって」
「……いいえ」
彼女は、はっと我に返った。
「少し、昔のことを思い出していただけよ」
「昔のこと!?」
芦戸の目が、きらりと輝いた。
「えっ、ちょっと待って! 今の反応、絶対なんかあるじゃん!」
「そうですわね。何かを思い出されたようでしたけれど……」
八百万まで興味を示し始めた。
麗日も、先ほどまで自分が追及されていたことを忘れたかのように、身を乗り出す。
「もしかして……告白されたこと、あるん!?」
「……」
しまった。
彼女は内心で、小さく息を吐いた。
目の前にいるのは、彼女の一挙手一投足を面白がる、好奇心旺盛な女子たちだった。
そして何より、彼女自身も、こうしたやり取りに慣れていなかった。