第10章 神野区の悪夢編
「もちろん、我々も君を守るためにできる限りのことをする。危険を軽視するつもりはない。必要な対策は、責任を持って講じていく」
そして、いつもの力強さを少しだけ和らげた声で告げた。
「だから、君が一人で答えを出そうとしなくてもいいんだ」
彼女は、じっとオールマイトを見つめていた。
その眼差しには、普段の彼女には珍しい、戸惑いの色が浮かんでいた。
「寮で待っているよ」
その一言は、不思議なほどまっすぐに彼女の胸へと届いた。
まるで、帰ってくる場所があるのだと、教えてくれるように。
彼女は俯きかけた顔を上げた。
「……分かりました」
口元に、柔らかな笑みが浮かぶ。
訪問は、まもなく終わりを迎えた。
玄関先で二人を見送る際、彼女は改めて頭を下げた。
「今日は、ありがとうございました。寮での生活、よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ、よろしく頼む」
オールマイトが答え、相澤も短く頷いた。
扉が閉まる。
静かになった玄関で、彼女はしばらくその場に立ち尽くしていた。
寮に入れば、今まで以上にクラスメイトたちと過ごす時間が増える。
朝も、昼も、夜も。
任務のために築いた関係が、いつの間にか自分自身の居場所になりつつあることを、彼女はもう否定しきれなくなっていた。
それでも、すべてを打ち明けることはできない。
彼らの知らない自分がいる。
彼らには見せられない任務がある。
その事実は、これからも変わらないだろう。
けれど。
「……寮で待っている、か」
彼女は小さく呟いた。
胸の奥に、温かなものが灯っていた。
それが何なのか、今はまだ名前をつけずにおこうと思った。
少なくとも今は。
あの騒がしくて、無遠慮で、どこか放っておけないクラスメイトたちが待つ場所へ、帰ることができるのだから。