第10章 神野区の悪夢編
「お邪魔します」
玄関先で出迎えたおもちは、二人をリビングへと案内した。
「お久しぶりです、オールマイト。相澤先生も」
「久しぶりだな」
相澤は短く答え、室内を見渡した。
オールマイトは彼女の顔を見つめると、どこか申し訳なさそうに眉を下げた。
「今日は、君に謝らなければならないと思って来たんだ」
「謝る、ですか?」
「ああ」
オールマイトは深く頭を下げた。
「林間合宿での一件だ。君が連れ去られるのを阻止できなかった。教師として、生徒を守る立場にありながら……君を危険な目に遭わせてしまった。本当に、すまなかった」
その声には、隠しきれない悔恨が滲んでいた。
隣に座る相澤も、目を伏せる。
「俺も同じだ。教師として、あの場にいた生徒たちを守り切れなかった。まして、お前は……」
言いかけて、相澤は口を閉ざした。
彼女の身に起きたことを思えば、簡単に言葉を続けられるものではなかった。
オール・フォー・ワンに捕らえられ、個性を奪われかけたこと。
そして、その結果として、彼女の中に眠っていた本当の力が目覚めたこと。
あの戦場で目にした光景は、二人の脳裏に今も鮮明に焼きついていた。
けれど、当の本人はというと。
「……ふふっ」
柔らかく笑った。
「そんなに気にしないでください。結果的には、オール・フォー・ワンのおかげで私の個性が目覚めたんですから。そう考えれば、結果オーライですよ」
あまりにもあっけらかんとした言い方だった。
相澤は呆れたように息を吐く。
「お前な……。あの状況を結果オーライの一言で片づけるな」
「でも、今こうして無事に帰ってこられましたし」
「無事、ねぇ……」
相澤の視線が、彼女の顔をじっと見つめる。
「本当に、お前は……」
それ以上は言わなかった。
無茶をするなと言ったところで、こいつは聞かないだろう。そう判断したような、諦めにも似た沈黙だった。