第10章 神野区の悪夢編
ホークスは、そんな彼女を知るたびに、少しずつ目が離せなくなっていた。
だからこそ、気に入らなかった。
彼女の中に、自分の知らない感情が芽生えていることが。
彼女が、自分の知らない誰かを大切にし始めていることが。
そして何より――その相手が、彼女のすぐそばにいる学生たちなのかもしれないということが。
自分は、彼女の秘密を知る側の人間だ。
彼女が何を背負い、どんな任務に身を置いてきたのか。その危うさも、強さも、誰より理解しているつもりだった。
けれど、彼女が心を許す場所は、自分のいる場所ではなかったのかもしれない。
そう思った瞬間、胸の奥がひどくざわついた。
「……ねえ、おもち」
彼女は返事をしない。
ホークスは一歩、距離を詰めた。
「こっちを見てよ」
「嫌よ」
即答だった。
「つれないなあ」
「あなたに付き合う義理はないわ」
「それはそう」
軽い調子で返しながら、さらに一歩近づく。
彼女はフェンスにもたれたまま、横目で彼を睨んだ。
これ以上近づくな。
そう告げるような視線だった。
それでも、ホークスは足を止めなかった。
いつものように冗談めかして、曖昧に笑って、核心を避けることならできた。
けれど、今はそれでは駄目だった。
彼女が遠くへ行ってしまう。
そんな予感が、どうしようもなく彼を焦らせていた。
「……俺さ」
ホークスの声から、いつもの軽薄さが消えた。
「ずっと好きだったんだ」
彼女の瞳が、初めて彼を正面から捉えた。