第10章 神野区の悪夢編
だからこそ、余計に腹が立った。
彼女自身、気づいていなかったのだ。
雄英で過ごした三か月の間に、いつの間にかA組の生徒たちを単なる任務対象として見られなくなっていたことに。
くだらない会話に笑い、彼らの成長を見守り、危険にさらされれば心配する。
彼らが自分に向けてくれる信頼を、いつしか当たり前のように受け止めていた。
そして、失いたくないと思い始めていた。
ホークスは、その変化を見抜いていたのだ。
図星だった。
それが、何よりも許せなかった。
「誰に向かってそんな戯言を言っているの?」
彼女はホークスを睨みつけた。
「私が、たかが三か月一緒に過ごしただけの生徒たちに情を移したとでも?任務と私情の区別もつかないほど、未熟に見えるのかしら」
「そこまでは言ってないけどね」
「だったら、余計な憶測で人を侮辱しないで」
「おい、落ち着け」
目良が間に入った。
「らしくないぞ。ホークスも、あまり煽るな」
「はいはい、すみません」
ホークスは軽く手を上げたが、その目は笑っていなかった。
「ただ、確認したかっただけですよ。彼女が本当に任務のために続行を望んでいるのか、それとも――」
「もういいわ」
彼女は言葉を遮った。
「あなたに、私の判断を疑われる筋合いはない」
冷ややかな声だった。
目良が再び彼女を制止しようとしたが、彼女は聞く耳を持たなかった。
ただ、目の前のホークスを睨み続ける。
彼は何もかも見透かしたような顔で、彼女の隠していた感情を暴こうとした。
そのことが、たまらなく不愉快だった。
けれど、本当に腹立たしかったのは――。
彼の言葉を、心のどこかで否定しきれなかったことだった。