第10章 神野区の悪夢編
病室に静寂が落ちる中、おもちはゆっくりと口を開いた。
「私は、このまま続行すべきだと考えています」
迷いのない声だった。
「雄英に潜入してから、三か月…A組の生徒たちとは一定の信頼関係を築いています。
彼らは私に気を許し、警戒心も薄れている。
今の関係性だからこそ、得られる情報も多いはずです」
目良は黙って耳を傾けた。
「ここで中断すれば、内通者は警戒を強め、捜査が振り出しに戻るでしょうね。
その間に情報が外部へ漏れれば、雄英だけじゃなく、今後のヒーロー社会にも影響が出かねない」
彼女は一度言葉を切り、二人を見据えた。
「今回の件で、私の個性が敵にとって脅威となることは明白。
だからこそ、敵が次にどう動くのかを把握する必要がある。
短期的に見て、私を雄英から引き上げる方が安全でしょう。」
二人を見据えて、おもちは話し続ける。
「しかし、長い目で見れば、内通者の特定を優先し、これまで築いた関係性を維持する方が合理的ね」
まるで報告書を読み上げるように、彼女は淡々と分析を続けた。
「もちろん、今後は個性の管理と情報漏洩への対策を徹底します。
危険性が高まったことを踏まえて、公安との連絡体制も見直すべき案件かと。
それらを条件として、任務の続行が最善だと考えます」
言い切った彼女の表情に、ためらいはなかった。
目良は資料を閉じ、感心したように頷いた。
「相変わらず、いい判断をするな。状況を冷静に分析できている。確かに、今ここで引き上げるのは得策ではないだろう」
「では、続行の方向で――」
目良が話をまとめようとした、そのときだった。
「……ねえ、ひとつ聞いてもいい?」
それまで黙っていたホークスが、軽い調子で口を挟んだ。
彼女が視線を向けると、ホークスは笑みを浮かべたまま、じっと彼女を見つめていた。
「君さ、やけにA組のことを大切にしているみたいだけど」
「……何が言いたいの?」
「本当に合理的な判断だけで、続行を希望してるのかなって」
ホークスの声から、わずかに笑みが消えた。
「もしかして、君自身があの子たちと一緒にいたいだけじゃない?」
一瞬、彼女の表情が凍りついた。
「……は?」