第10章 神野区の悪夢編
「君の個性が『絶対支配』であると判明した以上、これまでと同じ扱いを続けることは難しい」
目良は続けた。
「オール・フォー・ワンが君の個性を狙った理由も、今なら理解できる。あの男が君を手に入れていたら、どれほどの脅威になっていたか……想像するだけでも恐ろしい」
「しかも、奪おうとした結果、眠っていた龍を目覚めさせた。本人にとっても想定外だったでしょうね」
ホークスが腕を組み、静かに言葉を添えた。
「問題は、君自身がその力をどこまで把握できているか。それから、今後も雄英に身を置くことが適切なのか、という点です」
「……つまり、潜入捜査の続行について、判断する必要があるということですね」
「そういうことだ」
目良は頷いた。
「雄英内部に内通者がいる可能性は、依然として捨てきれない。君が担っていた役割は、決して小さくない。しかし、君の個性が明らかになったことで、敵に狙われる危険性はこれまで以上に高まった」
病室に、静かな沈黙が落ちた。
彼女は窓の外へ視線を向けた。
雄英で過ごした日々が脳裏をよぎる。
クラスメイトたちの顔。何気ない会話。訓練で交わした視線。そして、自分を案じてくれた人たち。
あの場所には、守るべきものがある。
けれど、今の自分がそこに居続けることは、本当に正しいのだろうか。
「……一つ、確認させてください」
彼女は二人に視線を戻した。
「今回の件で、私の潜入捜査は中止と判断されたのでしょうか。それとも、続行するかどうかを、私も含めて協議する段階ですか?」
目良とホークスは、一瞬だけ視線を交わした。
「まだ決定していない」
目良が答えた。
「だからこそ、今日は君の意向も聞きに来た」
ホークスは、いつもの軽い笑みを少しだけ和らげた。
「ただし、今回は任務の話だけじゃない。君自身の安全も考えなきゃいけないからね」
彼女は小さく息を吐いた。
任務を続けるべきか。
この力とどう向き合うべきか。
そして、自分はこれから何を守りたいのか。
答えを出すには、まだ時間が必要だった。
それでも、目を逸らすわけにはいかない。
彼女は背筋を伸ばし、二人を真っ直ぐに見つめた。
「分かりました。私の考えも、きちんとお伝えします」
その瞳には、先ほどまでの迷いとは違う、静かな決意が宿り始めていた。