第10章 神野区の悪夢編
オールマイトと共に病院へ搬送されたおもちは、目立った外傷がないことを確認された後、個性についての精密検査の結果を説明されることになった。
本来ならば、一週間前に受けた検査の結果を聞くはずだった。
だが、オール・フォー・ワンに捕らえられたことで使えなくなっていた個性が、思いもよらない形で戻ってきた。さらに、戦場では巨大な黄金の龍まで出現したのだ。
オールマイトはまだ動ける状態ではなく、彼女は一人で診察室へ向かった。
「まず、戦場で起きたことをお話しします」
彼女は、個性が突然使えるようになったこと、黄金の龍が現れたこと、そして龍が自分の個性そのものだったと判明したことを、医師に説明した。
話を聞き終えた医師は、慎重に検査結果を示した。
「今回の結果から、あなたの個性名は『絶対支配』と判断されています」
「……絶対支配」
その言葉を、彼女は静かに繰り返した。
これまで自分が使っていた個性は、その本質の一部にすぎなかったのだろう。体内の奥底に眠っていた龍こそが、彼女の力を抑え、制御していた存在だった。
そして、オール・フォー・ワンが個性を奪おうとしたことで、その封印が解かれた。
検査結果を見つめながら、彼女はふと、幼い頃の記憶を思い出した。
父が、個性について多くを語ろうとしなかったこと。
登録の際にも、何かを隠すように振る舞っていたこと。
あの頃は、その理由が分からなかった。
けれど、今なら分かる。
「……そういうことか」
彼女は小さく呟いた。
父は、この力がどれほど危険なものになり得るのかを知っていたのかもしれない。
もし、この個性の本質が知られていたら。
自分は、普通の子どもとして生きられなかったのではないだろうか。
彼女は検査結果をそっと閉じた。
父が何を知り、何を恐れていたのか。まだ分からないことは多い。
それでも、ひとつだけ確かなことがあった。
自分の中に眠っていた力は、もう目覚めてしまったのだ。