第10章 神野区の悪夢編
彼女の表情から、驚きが消えていく。
身体を襲っていた痛みが和らぎ、呼吸が楽になる。傷ついた箇所が次々と修復されていく感覚に、マウントレディは思わず目を丸くした。
「ちょっと、何これ……!こんなの、聞いたことないんだけど!」
「私も、今までできるとは思っていませんでした」
「あなた、本当に何者なの……?」
その問いに、おもちは答えなかった。
ただ、静かに微笑んだだけだった。
その後も彼女は、負傷したヒーローたちのもとを次々と巡っていった。
傷ついた者には手を差し伸べ、苦しむ者には声をかけ、重傷者には慎重に意識を集中させる。
誰に対しても態度は変わらない。
特別な力を誇示することもなければ、周囲の驚きに気を取られることもない。
ただ、目の前に助けを必要とする人がいるから。
その一心で、彼女は個性を使い続けていた。
やがて、戦場のあちこちから、驚きと安堵の声が上がり始める。
「痛みが引いた……!」
「動けるぞ……!」
「おい、こっちの負傷者も診てもらえるか!?」
彼女の周囲には、いつしか人だかりができていた。
そして、その光景を見つめていたヒーローたちは、改めて思い知らされることになる。
先ほど現れた黄金の龍。
オール・フォー・ワンすら拒絶した絶大な力。
そして今、命の危機に瀕した人々を救っている、ひとりの女性。
彼女の個性は、単に何かを操るだけのものではない。
あらゆるものに干渉し、あるべき姿へと導く力。
その可能性は、彼らの想像をはるかに超えていた。
黄金の光をまといながら、白いドレス姿の女性は静かに歩いていく。
肩には、ギャングオルカから借りた上着。
裾の破れたウェディングドレスは、戦場にはあまりにも不釣り合いだった。
それでも彼女は、誰よりも堂々としていた。
まるで、戦場に降り立った女神のように。
そして、その姿を見つめながら、ヒーローたちは誰もが同じ疑問を抱いていた。
――彼女はいったい、どこまでのことができるのだろうか。
その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。