第10章 神野区の悪夢編
その先にいたのは、ベストジーニストだった。
激しい戦闘で受けたダメージは大きく、身体のあちこちに傷を負っている。彼は救護班の処置を受けていたが、まだ自力で動くことも難しい状態だった。
「ベストジーニストさん。失礼しますね」
「……君は、先ほどの……」
彼は彼女を見上げ、わずかに目を細めた。
「あの龍といい、今のオールマイトの治療といい……。君は一体、どれほどの力を隠していたんだい?」
「私にも、まだ分からないことだらけです」
彼女は涼しい顔で答えた。
「でも、今はそれより治療を優先します」
ベストジーニストは一瞬だけ呆気に取られ、それから小さく笑った。
「……そうだね。君の言う通りだ」
彼女が手をかざすと、再び黄金の光が広がった。
損傷した筋肉や組織に意識を向け、身体が本来持っている機能を取り戻すように命じていく。
痛みに歪んでいた彼の表情が、少しずつ和らいでいった。
「……これは、驚いた」
治療が終わると、ベストジーニストはゆっくりと腕を動かした。
「身体が軽い。まだ完全ではないにせよ、これほど短時間で回復するとは……」
「無理は禁物ですよ。あくまでも応急的な処置ですから。あとできちんと検査を受けてくださいね」
「……心得たよ」
彼は、どこか感心したような表情で彼女を見送った。
その後も、彼女の足は止まらなかった。
「マウントレディさん」
「えっ、私!?」
瓦礫のそばで治療を受けていたマウントレディが、驚いた声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って!あなた、さっきまで捕まっていたんでしょう!?それに、あの龍……!」
「ええ。いろいろありましたね」
「いろいろ、で済ませる話じゃないでしょ!?」
思わず突っ込むマウントレディに、彼女はくすりと笑った。
「詳しいお話は、皆さんの治療が終わってからにしましょう」
そう言って、彼女はそっと手を伸ばした。
黄金の光が、マウントレディの身体を包み込む。
「……わ、すごい……」